「型」の活用で、子どもの論理的思考力も先生の指導力も伸ばす――「理科教育助成」実施校の先生に聞く(第17回)栃木県下野市立祇園小学校


(左から)日産財団常務理事の原田宏昭、下野市立祇園小学校の秋山貴子校長先生、谷田部二三子元校長、熊倉悠気先生。

 作業のお手本になるような形式は「型」とよばれます。身に付けた「型」は、その人が動作するときの自信のもとになったり、動作を拡張させるときの礎になったりします。

「型」を意識した教え方を確立し、子どもたちの論理的思考力の向上と、教員の指導力の向上につなげている学校があります。栃木県下野市立祇園小学校は、日産財団理科教育助成を活用した教育研究「主体的に学び、よく考えて課題解決ができる児童の育成 〜理科を軸に、書くことを通して〜」に取り組み、子どもたちに根拠を示して書くことを身に付けさせ、先生たち自身も理科好きになるなどの成果を上げました。日産財団はこの研究を高く評価し、「第8回理科教育賞」で同校に大賞を贈っています。同校の大賞受賞は、第3回(研究テーマ「ものづくりの学習を通して、自らの力で判断し表現する力を育成する」)に続く二度目となります。

 今回、研究を主導した熊倉悠気先生、元校長の谷田部二三子先生、それに現校長の秋山貴子校長先生に、研究の経緯や、「型」の実践法、また実感している効果などを伺いました。子どもたちに書くことや間違えることへの抵抗が減り、先生たちには授業に臨むことや授業を見せることへの積極性が増えたことが感じられました。

(※「祇園小学校」の「祇」は「ネ」に「氏」です)

学力テストの結果から「指導力の課題」を見出す

――「主体的に学び、よく考えて課題解決ができる児童の育成 ~理科を軸に、書くことを通して~」というテーマでの研究は、どういう経緯で始まったのでしょうか。

熊倉悠気先生(以下、敬称略) 祇園小学校は栃木県内でも学力レベルの高い学校で、保護者にも教育熱心な方が多くおられます。しかし最近、学力が下降傾向にあると、教職員が感じていました。とくに、4年生・5年生を対象とする「とちぎっ子学習状況調査」という県の学力テストでは、理科の成績が国語や算数より低くなりました。

 結果を詳しく見ると、資料分析や実験技能の成績が伸びておらず、「教師の指導力に課題がある」と考えるようになりました。


熊倉悠気先生。2003(平成15)年度より栃木県内の学校教員に採用され、大田原市立や栃木市立の小学校に勤務。2015(平成27)年度から祇園小学校に赴任。

谷田部二三子元校長先生(以下、敬称略) 私も赴任前、祇園小学校は学力の高い学校というイメージを抱いていました。赴任し、子どもたちの学習に向かう姿勢には素晴らしいものがあると実感しました。その一方で、伸び悩んでいる子がいることも把握しました。そうした子にも目を向け、学力を底上げする必要性を感じました。


谷田部二三子先生。1982(昭和57)年度より栃木県内の学校教員に。小山市立や旧国分寺町立の小学校で19年にわたり勤務。栃木県教育委員会事務局下都賀教育事務所にて社会教育主事、管理主事を務める。小山市立の小学校で教頭、校長を務めたあと、2019年度より祇園小学校の校長に就任。2020年度末に定年退職し、その後は下野市教育委員会で教育相談員を務めている。

――研究テーマに「書くことを通して」とあります。「書くこと」に主眼を置いたのはどうしてですか。

熊倉 以前より、学力テストで答えを書かない子どもたちが見られました。「あの子たちの学力からすれば書くことはできるだろうに」と、教員たちは課題意識をもっていました。研究期間の前から「書く活動」を行ってきましたが、今後は時間を確保するだけでなく、内容もさらに検討していくとよいのではということになり、「書くこと」に重きを置くようになりました。

書き方の「型」で予想や考察などを深める

――研究の具体的内容について伺います。いま、お話のあった「書くこと」については、どのような取り組みをしましたか。

熊倉 理科の授業では、「問題把握」「予想・仮説」「検証計画」「実験・観察」「結果の整理」「考察」と進んでいきます。その段階ごとに書き方の「型」を定め、「型」に沿って子どもたちが授業で得られたことを書いていくよう指導しました。


書き方の「型」。熊倉先生は前任校時代「このことから、◯◯ と考えられる」という考察のしかたなどで手応えを掴み、祇園小学校で先生たちと書き方の「型」を探究。徐々に「型」が築かれていった。

 とくに、「考察」の段階については、書き方の「型」によって授業を深めていこうと考えました。考察では「このことから ◯◯ と考えられる」という論理展開が重要となります。この「◯◯」に、問題把握の段階で設定した問題を当てはめれば、それが考察になります。

 たとえば、問題把握で「発芽に日光は必要だろうか」という問題をもったとします。これに対し、考察で「このことから、発芽に日光は必要だと考えられる」と書けば、考察を述べたことになります。

 また、「予想」の段階についても、考察とおなじく深めることが重要と考え、書き方の「型」を定めました。「◯◯ だと思う。なぜなら ◯◯」という「型」により、予想・仮説の根拠を示します。根拠に当たる内容は、これまでに学習したことや、これまで経験したことなどから考えます。

 ほかに、「検証計画」の段階についても、書き方の「型」を定めました。

――書き方の「型」を利用した教え方は、よくあるのでしょうか。

谷田部 国語科では、説明文の授業で行うこともあります。一方、理科での事例は、私どももあまり聞きません。「型にはめてしまうのはどうか」と考える人もいるかもしれませんが、まずは子どもたちが「型」を使って書いたり伝えたりできるようになり、そこから自分の書き方を発展させていけばよいのだと考えます。

 それに、「考察」においては「◯◯ だと思っていた。しかし ◯◯ だった」という「型」があるので、子どもたちは「自分の予想がまちがってもいいんだ」と思えるようになります。子どもは間違えることを恐れがちですが、これならば習ってきたことや経験したことから、自分なりの予想を恐れず書けます。この点でも、考察の「しかし or やはり」は重要ですね。

――実験がうまくいかず、導かれるはずの結果にならなかった場合、「とにかく型に当てはめよう」ということで、誤った結論が導かれるおそれはありませんか。

熊倉 それについては、教員たちで議論を深めました。そして、「実験結果を整理する時間を確保して対処する」ということになりました。具体的には、「1班◯、2班×、3班◯、4班◯、5班◯」といったように、全班の実験結果を黒板に書いていきます。これで、2班の子たちは「うちの班だけ×の結果だったんだ」とわかり、誤った結論を導くことを避けられるようになります。

――理科を教える先生たちが、書き方の「型」を用いて授業をすることの意義には、どういったものがありそうですか。

谷田部 授業の組み立てがしやすくなるのではないかと思います。書き方の「型」を用いることで、「考察」まで辿りつきやすくなるからです。たとえば、「型」に沿って子どもたちに「考察」を書かせるには、「予想」をしっかり立てておくことが必要だ、といったことよくわかり、しっかり授業を組み立てることにつながるわけです。

授業の「要点」をチェックシート化

――研究で、ほかに実践したことはありますか。

谷田部 「授業観察シート」の活用が挙げられます。公開授業をほかの教員たちが参観するとき、シートにある12個の「観点」をチェックし、よいと思ったことや気づいたことを書いて授業をおこなった教員に渡します。授業者である教員は、「ここはよい評価を得られた」「ここは足りなかった」とふりかえり、次回以降の改善につなげることができます。


授業観察シートの書き込み例。祇園小学校に勤務していた松川博美先生(現・下野市教育委員会事務局主幹兼指導主事)が学習指導主任とともに原案をつくった。栃木県教育委員会が提案する「授業改善に向けた3つの視点」(1. 授業の目標を子どもたちに示すこと、2. 授業を振り返る活動を行うこと、3.どの子にも自分の考えを書く習慣を付けさせること)も参考にした。

熊倉 シートには、公開授業1時間のうち10分だけでも時間をつくれたら授業を見て、その部分を観点を絞って観察できるようにするというねらいもありました。

秋山貴子校長先生(以下、敬称略) いまも私どもは公開授業をはじめ、教員がほかの教員や外部の指導主事たちに授業を見せるときなどにシートを使っています。参観した教員がシートに書いて授業をおこなった教員に渡すことで、授業をめぐる話が活発になり、学びあいの姿も見られます。廊下に積んであるシートを教員たちが気軽に手に携え、ほかの先生の授業を見に行っています。


秋山貴子校長先生。2000年度、栃木県下都賀地区で中学校家庭科の教員に採用され、家庭科の授業を担当。栃木県教育委員会事務局下都賀教育事務所にて社会教育主事を務める。その後、下野市立南河内中学校の教頭を務め、2020年度より祇園小学校校長。

――チェックすべき「観点」が記されてあるということは、授業をする先生も「ここを気をつければいいんだ」と要点整理できそうですね。

秋山 そのとおりです。新たに赴任してきた教員も、シートを見て「この点に留意して授業をすればいいんだ」と準備しています。

谷田部 シートの項目は、いわば授業の標準型が示されたものなので、若い教員たちにとっても指導力向上にプラスになるのではないかと思います。

子どもたちは論理的に考え、先生たちは理科が好きに

――研究を通して、どのような成果を得られましたか。

熊倉 子どもたちについては「書くことへの抵抗がなくなったこと」が、なによりの成果だったと思います。祇園小出身の生徒が多い中学校の先生も、「生徒たちは、授業ですごくよく書いている」とおっしゃっています。

 教員たちについては「理科が好きになったこと」が最大の成果だったと思います。研究前にとったアンケートでは、「理科の指導は好き・どちらかというと好き」と答えた教員は63%でしたが、研究後には100%になりました。授業に自信がないと言っている教員はまだいますが、「好き」から進歩や改善はされていくものと思います。

谷田部 子どもたちは、書くことによって、論理的思考力を養うことまで達したものと考えています。書いて考えを明確にしたうえで、ほかの子の発表を聞くことになるので、「あ、そうか」といったつぶやきがほうぼうから聞かれました。書くことを通して考えたからこそ、そういう反応が生まれたのだと捉えています。

 教員たちのあいだで「学び合う組織」が形成されていったのも見てとれました。子どもたちの下校後も、遅くまで職員室のミーティングスペースで授業について学び合っている教員たちの姿が見られました。


祇園小学校での授業のようす。日産財団理科教育助成によりタブレット端末を購入し、タイムラプス機能で雲や月の動くようすを長時間連続撮影するなど、通常はできない観察法も採り入れた。「きれいに撮れて、子どもたちは感動していました」(熊倉先生)。特殊ボンドを購入し、下野市内にある地層の標本をつくるなどもした。

子どもが学ぶように、教員も学ぶもの

――研究を通じて得られたものの多さを感じました。今後に向けての抱負を伺います。

秋山 これまで先生たちが研究でしてきたことを継続することです。学校の教員は入れ替わっていくものですが、熊倉先生ら中心メンバーがいるうちに継承し、子どもたちが書くこと、また教員たちが理科を楽しんで教えることを継続していければと思います。

 祇園小の教員たちはいまも学びつづけています。さまざまな経験を積み重ねる。授業を見せあう。助言を受ける。教員たちにはそうしたことをこれからも続けていってほしいと願っています。


祇園小学校の教員たちの学びあいのようす。実技研修や、教員と理科主任によるチームティーチングを実施。また、公開授業数は研究1年目で37回、2年目では57回に及んだ。

 子どもたちにも、今後もさまざまな経験をさせてあげたいと思っています。先日、子どもたち一人ずつが手に持った温度計を土に入れて「深さはこのくらいかな」「もうちょっとじゃない」と言いながら測りあっているようすを見ました。体験の数ほど、子どもは成長するものと、あらためて実感したところです。

――他校の先生たちへ、メッセージをお願いします。

熊倉 私どもは「教員の指導力をつけたい」「子どもの論理的思考力を養いたい」という目的をもって、研究に取り組んできました。課題や目的があるからこそ、この取り組みを進められたものだと思います。目的を明確にし、達成するに効果的なアプローチをしていくことが大切ではないでしょうか。

谷田部 理科の授業は、子どもたちが目を輝かせる時間であってほしい。けれども、教えなければならないという思いから、先生たちの心が重くなることもあります。そうしたときは、子どもたちの反応を楽しみながら、子どもたちの発想や好奇心をどう高められるか探求すると、先生たちも楽しくなってくると思います。ひとつの単元だけでも授業にとことん取り組めば自信になると思います。ちょっとしたことから始めてみるとよいのではないでしょうか。