日産自動車株式会社は1933年(昭和8年)に創立され、爾来40年にわたり日本の自動車産業の確立を目指して、日本経済と共に歩み、その間幾多の困難に遭遇したが、よくそれに耐え、我が国の自動車産業が輸出中核産業としての地歩を確立するに至つた経過に相当の寄与を果たし得たものと信ずる。

戦後20年有余の間に、日本経済は著しい経済成長を遂げ物質的繁栄を享受するに至つたが、その一因として科学技術の進展を挙げることができる。
しかしながらこのような急速な経済成長は一面において、資源・エネルギー・環境・食糧などに関する困難な諸問題を提起して来た。社会資本の不足もさることながら、従来のような効率のみを追求し、外的環境、国民生活への配慮を欠いた科学技術に対する反省が生まれている。

技術が本来人間の生存と福祉に欠くべからざる存在であるという認識に立った場合、科学技術の発達を真に人間の幸福に役立つ様に導くべきであり、困難な諸問題の解決に際しては、基礎的な学術の究明を起点としてその応用である技術の社会環境への影響を事前に十分に評価した革新的な総合的学術の開発を促進せねばならない。

日産自動車株式会社は、創業以来、企業経営に関する限り、その社会的責任を果たすことを基礎理念として来た。しかし新しい時代における新しい形の企業の社会的責任が問われている今日、さらに広くその責務を果たすべきことを痛感する。
1973年12月創業40年の記念日を迎えるにあたり、当社の今日あるは社会の恩沢によるところもまた大なることを自覚し、さらに有意義な事業をもつて社会に奉仕するため、財団法人日産科学振興財団(2011年4月1日より公益財団法人日産財団へ名称変更)を設立することを決意した次第である。

この財団は、我が国の将来にとつて総合的な視野に立つた学術進展が極めて重要であることに鑑み、その発達にいささかでも寄与して、国民福祉の向上と経済の成長に資することを目的とするものである。当面、自然科学を主とする学術に関する研究の助成、研究者育成の援助を主たる事業とし、当社はまず7億円を拠出して発足の資金とするが、今後相当額の寄附を重ねて事業規模の拡大と財団の基礎強化を計る所存である。

1973年12月26日
日産自動車株式会社