2023年8月「未来のリーダー教室」初となる「展開編」を開催しました

日産財団は、「未来のリーダー教室」で初となる「展開編」を2023(令和5)年8月2日(水)と7日(月)の2日間、早稲田大学早稲田キャンパス(東京都新宿区)で開催しました。「導入編」に参加した中高生たちと、プログラムづくりに関わった人たち、のべ16人が受講しました。マスター講師やゲスト講師からの直接的な語りを聴き、問い、語りあう充実した2日間となりました。

「ぐるぐるシンキング」を「展開編」でさらに深く

「展開編」は「未来のリーダー教室」の本論に位置づけているもので、今回が初の実施となります。

「展開編」の大きな特徴は、「未来のリーダー教室」の各テーマ内容を担当するマスター講師、および社会で活躍するゲスト講師たちと直接対話をし、ワークショップに臨むことができる点です。直接対話を通じて、「導入編」でも紹介した「世の中〜なると思う」「だから/でも私は〜する」 をループする思考「ぐるぐるシンキング」をさらに深く体感し、自分のものにしていくことができます。

社会との関わりを考えながらの作品づくり
アート思考

Day1のSession1は「アート思考」。このテーマを担当するマスター講師の一人の栗田絵莉子先生から、「アートとは人の心を動かすこと。世の中とのリンクを意識すれば、発想・インスピレーションのヒントを得られるし、ほかの人から作品を評価してもらうことができます」といった、社会との関わりを考えることの大切さを聞きました。


栗田絵莉子先生。玉川大学芸術学部芸術教育学科講師、博士(美術教育)。玉川大学にて金属工芸を学び、東京芸術大学大学院でガラス造形を専門的に学ぶ。修了後、アーティスト活動をしながら小・中・高等学校で講師として教育に携わる。国際バカロレア教育の講師となり、その傍ら東京芸術大学大学院博士課程で探求型美術教育を研究。博士号取得後、現在は玉川大学芸術学部講師として教鞭をとる

受講者たちはグループごとにアート作品づくりに挑みます。自分たちの感性を大切にしながら、あたえられた作品テーマをもとに対話し、考えを整理し、共感できるキーワードを選び、作品をつくっていきました。受講者たちは発表を受けて、作品について感じたことや自分のなかでの変容を書いていきます。


アート作品づくり


鑑賞会のようす


鑑賞シートへの記入

おなじく「アート思考」担当マスター講師の福村彩乃先生から、「アーティストは社会を常に見て、社会にどう影響をあたえるかまで考えています」といった話を聞き、さらにアーティストの思考と「ぐるぐるシンキング」は通じており、ぜひ役立ててほしいといったメッセージを受けとりました。


福村彩乃先生。リフレクトアート株式会社 代表取締役CEO。ピアニストとして幼少から日本やヨーロッパで演奏を行う。東京藝術大学大学院(音楽)修了後 ガラス工芸家を目指し、東京藝術大学大学院(美術)研究生在籍。現在、リフレクトアート株式会社代表取締役CEO。複数のガラスブランド運営の他、芸術事業におけるコンサルティング、アート思考プログラム提供及び講師育成を行う

新しいパラダイムのリーダーシップをつくるのはあなた
リーダーシップ

Session2は「リーダーシップ」です。担当マスター講師の池上重輔から、日本のチャンスが広がるのは、古いパラダイムから新しいパラダイムへ変えるときであり、そこにリーダーの役割があることを伝えました。


池上重輔先生。早稲田大学商学学術院教授、博士(経営学)。ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)、MARS JAPAN、ソフトバンクECホールディングス、ニッセイ・キャピタルを経て2017年より現職。2015年より東洋インキSCホールディングス社外監査役。ケンブリッジ大学より経営学修士(MBA)一橋大学より経営学博士(DBA)を取得。専門は経営戦略、グローバル経営。早稲田大学商学部卒業。主な編著書は『インバウンド・ビジネス戦略』(日本経済新聞社、監修)、『チャイナ・ウェイ』(英治出版、監訳)、『カルロス・ゴーンの経営論』(日本経済新聞社、編集)、『シチュエーショナル・ストラテジー』(中央経済社)


リーダーシップがうまく機能した経験・しなかった経験の共有

これからのリーダーに必要なことをめぐる話しあいが展開されます。

「失敗をおそれず、トライアンドエラーすること。かわる勇気をもつことが必要と思います」
「対応能力。謙虚さ。失敗したとき学べること。自分について知ること」


これからのリーダーに必要なことをめぐる話しあい

池上先生から、変革をつぎつぎとつくっていくことを指す「フォレスティング・イノベーション」や、複雑な倫理的問題に対して意思決定をすることを指す「メーキング・コンプレックス・エシカルディシジョン」などのリーダーシップのスキルについてのキーワードが出されていきました。「スキルは訓練によって身につけられるものです」

そして、人びとが行動しやすい環境をつくる「サーバント・リーダーシップ」などの、新しいリーダーシップの様式が生まれていることを聞きつつ、「これからのリーダーシップのあり方を、みなさんがつくっていかなければなりません」といったメッセージを受けました。

イノベーションへの考えを整理し、見直す
テクノロジー&イノベーション

Day2はSession3「テクノロジー&イノベーション」からスタート。まず、担当マスター講師の久村春芳先生によるイノベーション論を聞きました。「新たな価値・技術・考え方で、社会的に大きな変化をつくるのがイノベーションです。三つのシステムのタイプ、つまりTree・Matrix・Dynamicsを知ったうえで、『複雑さ』を整理しておくとイノバティブなことにつながります」と久村先生。


久村春芳先生。公益財団法人日産財団理事長。Technology Intelligence Consulting代表。日産自動車(株)総合研究所所長、フェロー等を歴任。 無段変速機の変速制御を中心に、登録特許88件。東京工業大学大学院機械工学専攻課程 修了、横浜国立大学大学院工学府システム統合工学専攻博士課程修了。博士(工学)

実際にこれらのことを経験するためグループワークを体験しました。ワークのタイトルは「マッハで使ってみよう3つの思考術」。あたえられた枠組みのなかで、いかにお店を繁盛させるかを考えていきます。


グループワーク。中央は出題者の日産財団常務理事・原田宏昭

さらに、日産自動車からゲスト講師として参加した上田哲郎先生の講演「未来のリーダーに向けて」を聞きました。一般的に考えられている、大きなテクノロジーで高い価値を生みだすイノベーションとは異なるタイプのイノベーションがあるという上田先生の論に、受講者たちは聞き入っていました。


上田哲郎先生。九州大学工学部電子工学科卒、同総合理工学研究科情報システム学専攻修了 1990年日産自動車(株)。1999年筑波大学経営政策科学研究科企業科学専攻 博士(システムズ・マネジメント)。2007年横浜ラボ設立。2017年よりエキスパートリーダ

日本発のイノベーションのあり方をめぐる、久村先生と上田さんのクロストークも繰り広げられ、受講者からの質問も自発的に出てきました。


久村先生と上田先生のクロストークでの質疑応答

人に決められた未来をあなたが破壊せよ
SF思考

Session4は「SF思考」です。担当マスター講師の宮本道人先生が示したテーマは「人に決められた未来をあなたが破壊せよ」。「導入編」の延長線として、「マジメに考えてはいない夢」をかけ合わせて「オリジナルな職業」をつくり出すワークショップに臨みます。


宮本道人先生。科学文化作家、応用文学者。東京大学VRセンター特任研究員。フィクションを用いた未来共創メソッドを開発し、多数の企業でワークショップを実施。単著『古びた未来をどう壊す?』、編著『SFプロトタイピング』『SF思考』。1989年生まれ、博士(理学、東京大学)

宮本先生によると、セッション名になっている「SF思考」は「フィクションの力を借りて、斜め上のビジョンの試作品を創るクリエイティブな手法」。現在の感覚に引きずられた想像を打破しようとするとき、SF思考の出番があるといいます。

ワークショップのレベルは高まっていきます。「博士」が開発してしまった「へんなロボット」が抱えている困りごとを、「アドバイザー」が聞いて、よきアドバイスを競いあうワークショップ「ロボットの進路相談室」などに臨みました。


ワークショップでの受講者と宮本先生の語らい

「質問タイム」で聞きたいことをとことん聞く

4つのSessionが終わったあと、受講者たちはマスター講師ら先生たちとのあいだの「質問タイム」に臨みました。

受講者「いろいろな肩書をもっていて、なにをめざしているのですか」
宮本先生「現実とはなにかといったことを突きつめることに興味ありますね」

受講者「数あるリーダーシップの種類のなかで、どれがいちばん人を惹きつける力が強いと思いますか」
池上先生「状況が喫緊なのか平時なのかなどで、人に求められるリーダーシップのあり方はさまざまです。環境やメンバーなど、考える軸はいくつかあります」


先生たちからの回答を聞く

受講者のみなさん「展開編」へのご参加ありがとうございました! 講師の先生たちも講義やワークショップをありがとうございました! 「未来のリーダー教室」では今秋以降、手を挙げてくださった実行委員を中心に、事務局がバックアップし、参加者たちの交流をさらに深めながら継続的な学びに繋げる「アルムナイ」の活動を本格的に進めていく予定です。

そしてこれからも「未来のリーダー教室」の「導入編」と「展開編」をみなさんにお届けしていきます。ぜひ、みなさんとともにさらに魅力的な「未来のリーダー教室」を築いていければと思います。ご参加・ご協力よろしくお願いします。