中学生が理系に興味を抱き、先輩が理系を見つめ直すプロジェクト--リカジョ育成賞受賞者に聞く 輝けミライの私!山陰ガールズプロジェクト

第4回日産財団リカジョ育成賞 準グランプリ

「山陰に住む女子中高生に対して理系進路選択支援を行い理系の魅力を発信します」

インタビュー: 国立米子工業高等専門学校 総合工学科 化学・バイオコース准教授 粳間由幸さん 物質工学科4年生 石井まといさん 機械工学科4年生 小暮芳渚さん
(実施日:2021年10月5日)

中学生ぐらいの世代に理系進学について興味を抱かせたり、自分に向いているか考えさせたりするのに、近い年齢の先輩たちの実体験を伴う話を聞く機会はなによりの参考になるでしょう。理系の視野がまったくなかった子たちも、話を聞く機会があれば、理系への視野が芽生えるかもしれません。

理系に興味がない女子中学生にも理系に興味・関心をもってもらい、理系の進路を選択してもらうことを目的に、工業高等専門学校(高専)や大学の先輩女子学生たちが大いに活躍している取り組みがあります。輝けミライの私!山陰ガールズプロジェクト「山陰に住む女子中高生に対して理系進路選択支援を行い理系の魅力を発信します」では、米子高専・松江高専・島根大学の学生たちが、山陰地区の中学生たちに合宿や講義などさまざまな活動を通じて、理系の魅力や現実を伝えています。この取り組みに対し、日産財団は2021年の第4回リカジョ育成賞で準グランプリを贈りました。

プロジェクトでは、中学生たちが理系に興味をもつとともに、女子高専生や女子大学生も気づきや学びの経験を積んでいるようです。プロジェクトを代表して、米子高専の粳間由幸准教授と4年生の石井まといさん・小暮芳渚さんに、活動内容や成果などをお聞きしました。

山陰の女子中高生3万人に理系を選んでもらいたい

――米子工業高等専門学校のみなさんは、松江工業高等専門学校ならびに島根大学とともに「山陰に住む女子中高生に対して理系進路選択支援を行い理系の魅力を発信します」というテーマで「輝けミライの私!山陰ガールズプロジェクト」に2019年度から取り組んできました。プロジェクト発足の経緯はどういったものでしたか。

粳間由幸准教授(以下、敬称略) 「優秀な理系人材を育てていきたい」という大きな目的意識があります。そのためには、より多くの女子が理系進学をすることが重要になると考えていました。私たち工業高等専門学校(高専)では、以前から男子学生の比率が高くありますが、女子学生を多く受け入れることで、全体の学力は向上していくだろうと考えています。そこで、理系にあまり興味がない女子生徒にも理系へ興味・関心を持ってもらい、理系の進路を選択してもらうことをめざすことにしました。


(中)国立米子工業高等専門学校 総合工学科 化学・バイオコースの粳間由幸准教授。2007年に同校着任後、授業のほか、理系女子に関する任務を担当。博士(理学)。専攻は生体関連化学など。(左)物質工学科4年生の石井まといさん。中学時代から数学・理科に興味があり米子高専に進学。(右)機械工学科4年生の小暮芳渚さん。ものづくりが好きで、中学時代に米子高専の公開講座の案内を見て高専のことを知り進学。2021年7月の贈呈式プレゼンテーションでは、物質工学科3年生の大山優輝さん(右端)も参加した。

私たち米子高専だけでは、影響を及ぼせる範囲にかぎりがあります。そこで、松江高専と島根大学とも協力関係をもち、鳥取県と島根県の山陰地区全体でプロジェクトを展開することにしました。両県の女子中高生の数は合計3万2500人ほどいます。


プロジェクトの対象エリア・人数と実施体制。同プロジェクトは科学技術振興機構(JST)「女子中高生の理系進路選択支援プログラム」に採択された。(画像提供:輝けミライの私!山陰ガールズプロジェクト)

1泊2日のリケジョ合宿で先輩との交流を深める

――プロジェクトでの中心的な活動をご紹介いただけますか。

粳間 まず挙げたいのが、2019年度に2回おこなった「リケジョ合宿」です。1泊2日という長い時間をとって、ゲストの立場である中学生たちとホストの立場である高専生・大学生が交流をしました。参加者みなが憧れるような、世界で活躍する女性研究者も招いて、特別講演もしていただきました。


リケジョ合宿・リケジョ大交流会の実施内容。合宿1回目は中学生15名、2回目は同22名が参加した。講演では、国立高等専門学校機構理事の大島まり氏(東京大学教授)、京都大学iPS研究所教授の濵﨑洋子氏、科学技術振興機構(JST)副理事の渡辺美代子氏が登壇した。(写真提供:輝けミライの私!山陰ガールズプロジェクト)

おなじ時間を長く過ごすことで、短時間ではできないようなさまざまな話を参加者たちはすることができます。特別講演をしてくださった外部講師とも貴重な時間を過ごせるだろうと企画しました。

中学生から大学生まで相部屋で過ごしてもらったり、開校式の後すぐ昼食のピザやうどんをみんなで料理してもらったりして、参加者たちの緊張をほぐすことにもつとめました。

――小暮さんはリケジョ合宿に参加したそうですが、ホスト役として印象に残ったのはどのようなことですか。

小暮芳渚さん(以下、敬称略) 空き時間に参加した中学生たちから質問を受けました。私は機械工学科に所属していますが、中学生たちには女子がこの分野で活動するイメージがあまりなかったみたいで、「どんな授業内容ですか」「女子はどのくらいいますか」と具体的なことを聞かれました。ものづくりが楽しいとう漠然とした気持ちで高専に入ったけれど、知識がついてより楽しくなってきたと、自分なりに理系進学の魅力を伝えられたと思います。

特別講演では、講師の方から、キャリアを積むことと、プライベートを大切にすることのバランスのとり方などについて聞くことができました。普段の講演ではなかなか聞けないことを聞けて、自分も学べることがあってよかったです。

――2020年以降のコロナ禍を迎えてからは、どう対応しましたか。

粳間 内容はそのままで、日帰り形式の「リケジョ大交流会」を開催しました。日帰りですし、みんなで料理をすることもできませんでしたが、それでも年齢差のある参加者たちが交流を深めるための工夫は考えました。講演の合間に高専の学生たちに実験を演示してもらい、中学生たちがそれを体験するような時間を設けることにしたのです。

学生による講演、本人たちにも学びが

――プロジェクトでは、リケジョ合宿・リケジョ大交流会のほかに、女子高専生や女子大学生たちが母校の中学校に出向いての講演会もおこなったそうですね。

粳間 はい。理系の魅力について、母校の後輩たちに話をするというのが主旨です。ただし、理系の魅力だけでなく、中学生たちにも理系の勉強は大変だというイメージがあると思うので、そうした実感も講師の学生たちに隠さずに話してもらうことにしています。

――受講した中学生たちの反応はどうでしたか。

粳間 先輩の学生の講演発表が終わっても、講演者を取り囲んでたくさん質問が出ていました。年齢が近く、私たちが講演するよりも、よほど身近な存在に感じているのでしょう。アンケート結果からは、理系の魅力とともに大変さも聞けたことで、満足度が高まったようです。

――講師役の先輩学生たちにとってもよい経験になるのではないでしょうか。

粳間 そう思います。学生が講演に臨むときは発表資料をパワーポイントで準備します。その準備段階で、自分が理系を選んだ当時にタイムスリップして初心に戻り、日々の学びに生かすことができたといってくれる学生もいました。

――石井さんは後輩中学生に向けての講演をこれからするそうですね。

石井まといさん(以下、敬称略) はい。米子高専に進学することに決めた理由について、1年次から学科が振り分けられていて、将来の選択肢を絞れていたので選んだといった理由や、英語が苦手だけれど化学には英語がたくさん出てくるのでしんどいといった苦労も含め、いろいろ話そうと思っています。後輩の中学生たちから聞かれたことには素直に答えようと思っています。


先輩女子学生による出身中学校での講演会のようす。左上から時計まわりに、福生中学校、岸本中学校、加茂中学校、淀江中学校、福米中学校、東山中学校。(写真提供:輝けミライの私!山陰ガールズプロジェクト)

参加しやすさを調べ「空振り」をなくす

――プロジェクトを進めてきたなかで、課題を克服したようなことはありましたか。

粳間 開始当初は、中学生たち参加者を募って催しものを開いても、1人や2人しか参加してもらえないこともありました。土曜・日曜にわざわざ参加してもらう先生たちに、時間をもて余すようなことをさせてしまい、申しわけないかぎりでした。

反省に立ち、「空振り」をなくすべく、米子市の教育委員会に通いました。委員の先生に伺いながら中学校の行事予定をよく調べ、中学生がいちばん参加しやすい日程を調整しました。これにより、2019年後半から2020年にかけては700人の参加者を迎えることができました。

――学生の二人には、プロジェクトを通して成長できたと思う点を聞きます。

小暮 中学生と話せる機会を多くもてて、どういうことを彼女たちが気にしているのかがわかってきました。それに対して、自分としてなにをしてあげたらいいかを、よく考えることができるようになった気がします。

石井 粳間先生もおっしゃいましたが、自分がどうして理系を選んだかを振り返ることができました。それにより、自分の今後のキャリアについて「薬品系に進みたい」ということが、さらに明確になってきました。自分にとっての先輩とも交流でき、将来への視野も広がった気がします。

気軽な気持ちで理系の扉を叩いて


「輝けミライの私!山陰ガールズプロジェクト」における多様な活動。ほかにSNS更新、会社見学・交流会、成果報告会なども実施。(写真提供:輝けミライの私!山陰ガールズプロジェクト)

――今後、プロジェクトをどう発展させていきたいですか。とくに、コロナ禍でオンラインの活用がさまざまな場面で目指されていますが。

粳間 オンライン開催は準備しているところです。中学生の参加者が自宅や中学校にいながら、オンラインツールを使って最先端の実験教材などに触れ、理系の魅力を感じてもらえるようなコンテンツをつくれたらと考え、実際につくりはじめているところです。

一方で、直接、中学生が高専生や大学生たちと対面することも意義があるので、中学校と本校の許可があれば、感染防止対策などを最大限考慮しながら、対面式の講演会なども再開していければとも考えています。

また、リケジョ合宿は、中学生も高専生・大学生もともに満足していた企画です。コロナ禍が収束したら、ぜひまた企画したいと考えています。

――最後に学生の二人に、理系に進もうか考えている女子たちにメッセージをお願いします。

小暮 あまり深く考えなくても、「理系に進んでみたい」という気持ちさえあれば、進んでみることを考えてみたらよいと思います。

石井 すこしでも理系に興味があれば、公開講座に参加して講師に話を聞いたり、プロジェクトでこれからつくる予定の動画を見たりして、理系がどんなところかイメージをもつとよいと思います。たとえ将来、「理系に向かないな」と思ったとしても、進路変更は可能なので、まずは気軽に私たちのプロジェクトに参加するなどして、理系の世界を実感してもらえたらと思います。