「モノに多く触れる経験」を通じて「考えを話す・発表する自信」をつけさせる――「理科教育助成」実施校の先生に聞く(第31回)茨城県牛久市立牛久第二小学校

茨城県牛久市立牛久第二小学校での取材のようす。

 理科は、実験器具などのモノに触れる機会の多い教科といえます。子どもたちは、モノに効果的に触れることで、教科書や板書から得られる以上の学びを得られるのではないでしょうか。このモノを重視した理科教育で成果を上げている学校があります。茨城県牛久市立牛久第二小学校は、教材・教具の手作りや実験方法の工夫などによって、子どもたちに体験・対話の機会を多くあたえ、成果を上げています。同校は日産財団理科教育助成を活用したこの研究が評価され、第12回理科教育賞を受賞しました。研究を主導した浅野幸代先生と校長の田中久弥子先生は、子どもたちのモノに触れる体験が「自分の考えを話す・発表する」ことなどでの「自信」につながること強調します。

「聴き合う関係から、学びを深める」

――牛久第二小学校についてご紹介いただけますか。

田中久弥子校長先生(以下、敬称略) 私は赴任1年目ですが、地域環境に恵まれている学校と感じています。牛久市には「コミュニティ・スクール」の制度があり、当校も学校運営協議会の方々に学校運営に参加していただいています。学校のことを自分ごとと捉え、よりよい学校づくりのため積極的なご協力をいただいています。また、市の「学びの共同体」による学校づくりの取り組みがあるなかで、当校は「聴き合う関係から、学びを深める授業づくり」に力を入れています。

田中久弥子校長。1992(平成4)年度、茨城県阿見町立阿見中学校にて英語教員として初任。同校で当時勤務していた浅野幸代先生と出会う。以降、小学校の教員もつとめ、2023(令和5)年度より牛久第二小学校の校長に就任。

自分で自分の考えを話せる子を育てる

――理科教育助成を活用して取り組まれた研究「理科における問題解決の力を育てる学習指導の在り方」についてお聞きします。研究にあたり、どのような課題意識をもっておられましたか。

浅野幸代先生(以下、敬称略) これからの時代は多様な変化をともなう時代です。私たちの世代とちがい、知識を身につけるだけでは対応できない時代になると考えています。そこで、子どもたちに「不思議だな」と疑問に思ったことを自分の力で解決する能力を身につけさせたいと思いました。

浅野幸代先生。1989(平成元)年、大学を卒業し、地元の中学校で講師をつとめる。1991(平成3)年度より中学校教員に。中学校で計20年間、また小学校で計15年間、教員をつとめる。2021(令和3)年度、牛久第二小学校に赴任。理科の専科教員として3〜6年生を指導する。

浅野 田中校長が言いましたように、牛久市は協働的な学習に力を入れています。それを土台とし、さらに問題解決の力を育むことに発展できればとも考えました。具体的には、子どもたちには自分の考えを伝えることに課題があることがアンケート結果などからもわかっていたので、自分で自分の考えを話せるような子どもに育てていければと思っていました。

「1人1実験」「ペア実験」で主体的な学習を促す

――その手だてとして、三つの実践をされたと聞きます。一つめが「1人1実験により、主体的に学習に取り組む児童を育てる」だったそうですね。

浅野 はい。身近なものを実験教材にし、「1人1実験」をおこなえるようにしました。たとえば、6年生の水溶液の実験では、ムラサキイモの液体とハーブティーを使って、酸性かアルカリ性かを調べています。

実践1 1人1実験・ペア実験 → 主体的な学習。(画像提供:牛久市立牛久第二小学校)

浅野 「1人1実験」により、子どもたちは実験に対して不安を抱かなくなり、自身で教材を操作しようとしている様子でした。進め方が不安なときは、となりの子に「どうやるの」と尋ねたり、逆に進め方に自信がある子は「こうやるんだよ」と手助けしたり、協力する姿も見られました。1人だとむずかしい実験では、「ペア実験」にすることもあります。学びの「個別化」はあっても「孤立化」にはなっていません。

田中 グループでなにか一つのことに取り組む場合、どうしても「だれかに任せればいい」という気持ちになりがちですが、「1人1実験」や「ペア実験」にすればそうならず、自然と隣りの子と「どうやるの」などと対話が生まれてくるものです。

――実験教材をどう準備されましたか。

浅野 100円ショップをまわって、紙コップや爪楊枝など、さまざまな材料を入手しました。子どもたちは、「これを使いたい」「あれがほしい」とよく言うので、使いたい教材を使いたいとき渡せるよう準備しました。市販の教材キットを参考に材料を代用し、自作していきます。牛久市では理科支援員が週1回きてくださるので、試作品をつくってもらったりもしました。

――教材の自作には、安価で済むこと以外にも意義があるのでしょうか。

浅野 あると思います。「これ、私が作ったんだよ」と教材を持っていくと、子どもたちの教材を見る目が変わります。「自分たちでもつくれるかも」という思いもあるようです。具体的なモノがある点は、理科の強みでもあると思います。

ICTの活用で伝え合う力を高める

――ほかの実践内容についても伺います。「情報通信技術(ICT)を活用し伝え合う力を高める」ことも進めてこられたとお聞きします。

浅野 はい。当初、ICTスキルを教えることだけで手一杯でしたが、子どもたちは理科と他教科の授業で経験を重ね、スキルを磨いてきました。

 5年生・6年生はICTも使って調べ学習をおこないポスターセッションに臨みました。また、プログラミングでもICTを活用していますが、みな興味津々で方法を教え合うなどしています。たとえば6年生は「月の満ち欠け」で、月の動きを自分でプログラミングし、トライ・アンド・エラーを繰り返しながら友だちとやり方を共有し、理解を進めています。

 私自身は、実験している動画を編集して、ユーチューブに限定公開でアップロードし、実験を説明するとき子どもたちに見せています。実験の説明を短時間で済ませることができ、その分、長く活動時間をとることができます。

田中 子どもたちは、まず浅野先生から先生自身やってみたことを「こうなるよね」と示され、「なるほど」と理解したうえで自分たちもICTでアウトプットするといった流れができています。

実践2 ICTの活用 → 伝え合う力。(画像提供:牛久市立牛久第二小学校)

数々の体験から問題解決の意欲・能力を高める

――実践としてもう一つ、「体験・対話から問題を見出し、問題解決に向けた意欲や能力を育てる」こともされてきたと聞きます。

浅野 そうです。子どもたちはユーチューブなどを見て知識を得ることが多くありますが、みずから五感を通じて体験し、ときに失敗することも大切と考えています。そこで自作のものづくり体験を授業で多く取り入れました。

 たとえば3年生は、豆電球で明かりを灯すことに挑みましたが、何度やってみてもなかなかうまくいきません。結局、接触不良が原因だったとわかりました。そうした経験を通じて、子どもたちは学んでいくものだと思います。

 アンケートをとると、「理科は役に立つか」という問いに対し、学年が上がるほど「役立つ」「やや役立つ」の答えがすくなくなるという状況がありました。学んだことを体験を通じて活かせる場をつくりたいとも考えました。

田中 理科の授業を参観すると、子どもたちはつねに活動をしています。先生が話すのは、知識を教えこむためでなく、作業のしかたを伝えるためとなっています。自分を振り返ると器具を扱うようなとき、滅多に触れないのでどきどきしていましたが、当校の子どもたちにはまったくそれがありません。

実践3 体験・対話の重視 → 問題解決の意欲・能力。(画像提供:牛久市立牛久第二小学校)

「自分の考えを話す・発表する」子どもが大幅に増加

――研究期間を通じて、子どもたちにどのような変化が起きたでしょうか。

浅野 たくさんのモノに触れて体験することで、子どもたちのあいだで対話が生まれました。それにより、話したり発表したりすることに自信をもてる子が増えてきたと思います。研究期間中、7月と11月に同一質問でアンケートをとり、子どもたちの変化を探ったところ、「自分の考えを話す・発表する」についての変化が大きくありました。「話す」「まあまあ話す」が7月で計56%ほどだったのが、11月には計77%になったのです。

 もともと理科が好きな子は多くいましたが、モノに多く触れることで話す自信がつくという子どもたちの伸びを見ることができました。また、動画に多く触れることで、自信をもって実験に取り組める子も増えてきたと思います。

成果をより深く広く共有していく

――研究実施後の状況や今後に向けての抱負を伺います。

浅野 私は理科の専科教員ですが、各学級担任の先生たちと協力し、教科横断的な取り組みに充実させていけたらと話しています。たとえば、5年生の総合的な学習の時間では「住みよいまちづくり」がテーマの一つとなっているので、理科の「台風と天気の変化」の単元に、持続可能な開発目標(SDGs)を関連づけて、気候変動や防災についての新聞づくりをしているところです。

 また、6年生理科の「私たちの生活と電気」という単元でエネルギーの学習をするので、これからの日本のエネルギー利用などのあり方がどうなっていくとよいか考えることと関連づけていきたいと担任の先生と話しあっています。

田中 今回の研究の成果がさまざまなところで見られています。理科が中核となり身につけることのできたICT活用力を、他教科で活かすことができています。また「1人1実験」の体験は、自分自身で思考を深めて、まとめ、振り返りをする力につながっています。研究成果を校内でより深く広く共有し、さらに活かしていければと考えています。

●コラム 児童のみなさんの前で表彰をしました

 取材日は、牛久第二小学校の学期がわりの日。体育館で終業式・始業式のあと、理科教育賞の表彰式を設けてくださいました。

 日産財団常務理事の原田宏昭が賞状を田中校長に、楯を浅野先生に渡すと、児童たちから大きな拍手が。原田が「この素晴らしい理科の授業を受けたみなさんが将来、すごい科学者や技術者になり、ノーベル賞をとるような発見・発明をしてくれることを願っています!」と、お祝いのことばを述べました。

 田中校長から「浅野先生が中心に理科の学習の研究をし、みなさんがどのように学びを深めてきたか報告したところ、このような賞をいただけました。今後も自信をもって、学びを深めていってほしいと思います」とごあいさつをいただきました。

 児童のみなさんの、話をよく聴く姿が印象的でした。