第10回・第11回理科教育賞贈呈式 レポート

公益財団法人日産財団は2023年7月28日(金)「第10回・第11回理科教育賞贈呈式」を、横浜ベイシェラトン&タワーズで実施し、オンラインでのライブ配信もいたしました。受賞各校による成果発表会を経て、選考委員が第10回の大賞に神奈川県川崎市立下沼部小学校を、また第11回の大賞に福岡県北九州市立湯川小学校を選出しました。

第10回・第11回「理科教育助成」対象校の研究成果から賞を選出

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、第10回と第11回の両方における各賞を贈呈しました。第10回の賞対象となる「日産財団理科教育助成」の期間は、当初の予定より1年延長され、2020年1月から2022年12月です。また、第11回の賞対象となる同助成期間は、2021年1月から2022年12月です。

 冒頭、日産財団理事長の久村春芳が挨拶しました。「科学技術がすさまじいスピードで変化し、子供たちはいまとちがう世界に生きることになります。社会の変化に目を向け、技術を駆使できるようになることが大切です」と述べ、理科教育助成の意義を強調しました。


日産財団理事長の久村春芳

 来賓を代表して神奈川県教育委員会教育長の花田忠雄さまよりご挨拶をいただきました。花田から「受賞校のみなさまの成果が広く伝わることで、理系分野への関心が高まり、研究が充実していくことと思います」と、期待のことばをお寄せいただきました。


神奈川県教育委員会教育長の花田忠雄さま

第10回受賞校が成果発表、選考委員とのあいだの活発な質疑応答も

 成果発表会では、「日産財団理科教育助成」を活用した研究・取組で、理科教育賞を受賞した4校が順に、成果を発表しました。

 第10回の受賞校から、まず川崎市立下沼部小学校が「見方・考え方を働かせ、資質・能力を育む理科・生活科の授業づくり 〜子どもが主体的に動き出す授業を目指して〜」のテーマで成果を発表しました。「『導入』の工夫と『単元全体を見通した構想』」や「『資質・能力』と『見方・考え方』を明確にする」といった手立てを紹介しました。児童の主体性の向上を成果に挙げました。


発表する久保田将央先生(左)と菅原隆宏校長

 栃木市立赤津小学校は、「本校ならではの地域環境を生かし、郷土愛とプログラミング的思考を育む 〜『理科の見方考え方』で培う主体的・対話的で、深い学び~」の研究成果を発表。地域環境を「赤津小ビオトープ」という教材に位置づけ、愛鳥活動などに活用したことを伝えました。各種の思考ツールでプログラミング的思考を育んだことも伝えました。


発表する関根光弘元校長(左)と植木裕子校長

 福岡市立香椎東小学校は、「自らの学びを調整する生活科・理科・生活単元学習 〜対話して学ぶ場の工夫と児童の自己評価の活用を通して〜」というテーマでの研究の成果を発表。「対話して学ぶ場」として、発見の場、予見の場、追究の場、共有の場を設け、児童たちの対話を促進したことなどを紹介しました。児童による自己評価の実施についても伝えました。


発表する岩田謙人先生

 会津若松市立謹教小学校は、「学び合い、高め合う授業の創造 〜学びの実感に向かう姿を求めて〜」というテーマで取り組んだ研究の成果を発表。思考力・判断力・表現力の育成のため、「中核となる資質・能力」(中核となる思考スキル)を設定し、意図的・計画的に活用したことなどを紹介しました。ICT活用も、考察や振り返りなどに有効だったと強調しました。


発表する芹沢志保先生(左)と古関善修先生

発表者の先生たちは成果発表のあと選考委員からの質問を受け応じます。闊達な質疑応答となりました。


左上が選考委員長・長谷部伸治氏(京都大学国際高等教育院特定教授)。その右から時計回りに、委員の稲田結美氏(日本体育大学教授)、岡田努氏(福島大学教授)、久保田善彦氏(玉川大学教授)、小野瀬倫也氏(国士舘大学教授)、人見久城氏(宇都宮大学教授)、森藤義孝氏(福岡教育大学教授)

第11回受賞校が成果発表、取組を熱く披露

 続いて第11回の受賞校のあいだでは、まず足利市立梁田小学校より「理科の見方・考え方を育むICTの活用 〜子ども同士をつなぎ高め合える学習指導を基盤に〜」の取組の成果発表がありました。「学び合いの工夫により学習意欲が高まる」「わかる授業を展開することで、理科の見方・考え方を働かせることができる」という仮説を立て、情報通信端末の活用でこれらを実証したことを伝えました。


発表する槇田剛志先生(左)と駒場眞一校長

 北九州市立湯川小学校は、「自ら学び、問い続け、変わる自分を楽しむ子どもを育む学習指導」というテーマでの研究の成果を発表しました。3年生「音のふしぎ」で太鼓を活用し、子供たちに音と振動についての問いや気づきを醸成したことなどを紹介。イメージマップ作成や、自覚化を促す振り返りの実践も伝えました。


質疑に応答する入尾康太先生

 いわき市立渡辺小学校は、「自然の事物・現象から見出した問題を主体的に解決し、自然のすばらしさや尊さを表現できる子どもの育成」をテーマとする研究の成果を発表。全校サイエンス集会での「大型空気砲の渦巻き観察」などの実演事例を紹介しました。実物と触れ合う直接体験の実践や、情報通信技術教育機器の活用、学習環境の整備についても伝えました。


質疑に応答する関口洋先生

 横浜市立神奈川小学校は、「子どもが自分の問いをもち、探究することを楽しんだり、やりがいを味わったりする理科学習」をテーマとする研究の成果を発表。問いをもち探究を楽しめる子供の姿をめざし、「問いをつくる&探究する」を実践したことを紹介しました。問いはどの段階でも生まれるといった研究中の気づきも伝えました。


質疑に応答する川﨑真理先生

伊藤賀一先生による「未来のリーダー教室」学校導入記念・特別講演会も

 続いて、リクルート「スタディサプリ」の人気社会科講師である伊藤賀一先生による「未来のリーダー教室」学校導入記念・特別講演会をおこないました。

 伊藤先生は、京都府出身。法政大学文学部史学科卒業後、東進ハイスクール等を経て現職に就かれました。また、43歳で早稲田大学教育学部教育学科に入学、49歳で卒業され、多方面でご活躍です。

 日産財団が早稲田大学と共同で開発した未来のリーダー教室では、「導入編」のファシリテーターとしてモデル講義に登壇。学校等外部団体での自律的な開催を可能にする教材開発にも協力されています。

 本講演の様子は、以下のリンクより動画でご覧いただけます。
 https://www.youtube.com/watch?v=WJS7M2cOaxw

伊藤賀一先生。講演の様子はこちらです

 なお、未来のリーダー教室については、こちらのページをご覧ください。

各回の大賞・賞・ポスターセッション賞を発表・贈呈

 いよいよ各賞の発表です。第10回理科教育賞について、長谷部選考委員長が下記のとおり、各賞の結果と大賞の評を発表しました。

第10回
理科教育大賞
・川崎市立下沼部小学校
「見方・考え方を働かせ、資質・能力を育む理科・生活科の授業づくり 〜子どもが主体的に動き出す授業を目指して〜」

「低・中・高学年に対して、主体的な問題解決の姿の具現化をめざす綿密な授業計画と実践、詳細な評価をおこなっている点を高く評価しました。単元全体を見通すための単元構想図の作成やVRの利用、地域に根ざした教材の開発など、ユニークな取り組みに挑戦しており、その成果が認められます。資質、能力、見方・考え方などに沿った授業の好例として高く評価しました。単元研究などを継続して進めていただきたいと思います」(長谷部選考委員長)

理科教育賞
・栃木市立赤津小学校
「本校ならではの地域環境を生かし、郷土愛とプログラミング的思考を育む 〜『理科の見方考え方』で培う主体的・対話的で、深い学び~」
・福岡市立香椎東小学校
「自らの学びを調整する生活科・理科・生活単元学習 〜対話して学ぶ場の工夫と児童の自己評価の活用を通して〜」
・会津若松市立謹教小学校
「学び合い、高め合う授業の創造 〜学びの実感に向かう姿を求めて〜」

ポスターセッション賞
・相模原市立淵野辺小学校
「自ら問題を追究し、ともに学びを深める子どもの育成〜見通しをもって問題を解決する授業づくり〜」

 大賞を受賞した川崎市立下沼部小学校の菅原隆宏校長からお言葉をいただきました。

「大賞を選出していただき、教職員一同、感謝しています。新しい学校の生活様式のなかで、現場がどう研究を進んでいくか悩みました。3年間の研究で単元を構築でき、今回の発表につながりました。グループ活動の制限があるなか、問題を課題を解決する子供同士の話し合いができなかったのが課題です。賞を励みにしてまいります。ありがとうございました」


第10回理科教育賞受賞校先生と選考委員・日産財団理事による記念撮影

 続いて、第11回理科教育賞について、長谷部選考委員長が下記のとおり、各賞の結果と大賞の評を発表しました。

理科教育大賞
・北九州市立湯川小学校
「自ら学び、問い続け、変わる自分を楽しむ子どもを育む学習指導」

「学習者自身が自己の変容を自覚していくことに焦点を当て、多くのテーマで実践されたことが報告書から読みとれました。興味や問題を満たす教材など、研究のねらいに沿った優れた実践がなされています。全国学力・学習状況調査などの客観的に判断できるデータを用いて研究成果を検証している点も評価できます。今後の課題も明確に提示されており、今後さらなる研究の進展が期待されます」(長谷部選考委員長)

理科教育賞
・足利市立梁田小学校
「理科の見方・考え方を育むICTの活用 〜子ども同士をつなぎ高め合える学習指導を基盤に〜」
・いわき市立渡辺小学校
「自然の事物・現象から見出した問題を主体的に解決し、自然のすばらしさや尊さを表現できる子どもの育成」
・横浜市立神奈川小学校
「子どもが自分の問いをもち、探究することを楽しんだり、やりがいを味わったりする理科学習」

ポスターセッション賞
・横浜市立榎が丘小学校
「豊かなかかわり合いを通して、主体的に学びを深めようとする子どもの育成」
・飯塚市立上穂波小学校
「自ら課題をみつけ、主体的に考え、友だちと共に高め合う子どもを育てる理科学習指導~試行と観察・実験、分析・考察の行き戻りを活性化するICTの効果的な活用を通して~」

 大賞を受賞された湯川小学校の古澤律子校長からお言葉をいただきました。

「本日はありがとうございます。2年間、新型コロナウイルス感染症のなか試行錯誤をしてきましたが、日産財団から助成をいただき理科教育が進みました。2年間やってこられたのは、先生たちが方向づけをしてくれたおかげです。子供たちが地道に2年間、理科の授業に臨んできたのを認めていただけた気がします。20年後に違う世界で生きている子供たちは、その新しい時代に新しい価値観をもっていることと思います。これからも若い先生たちを中心に理科教育に邁進してまいります」


第11回理科教育賞受賞校の先生と選考委員・日産財団理事による記念撮影

 各校のみなさま、受賞おめでとうございます。また、理科教育助成にご応募いただいたすべての学校のみなさまにお礼を申しあげます。