ICT活用や探究的活動で、コロナ禍でも「理科の見方・考え方」を働かせる子どもを育成――「理科教育助成」実施校の先生に聞く(第34回)栃木県足利市立梁田小学校


栃木県足利市立梁田小学校でのインタビューのようす。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、どの学校も非日常的な授業を余儀なくされました。コロナ禍は徐々に過去のものになりつつありますが、今後おなじような感染症の流行が起きないとはいえません。学校がどのような対策や工夫で、子どもたちの学習を保とうとしたかを伝えていくことは、未来への財産となります。今回は、COVID-19で強いられた非対面形式の授業においても、学習成果を上げることのできた学校の取り組みを紹介します。栃木県足利市立梁田小学校は、さまざまな授業の工夫で、子どもたちの学習意欲を維持・向上させ、理科の見方・考え方を働かせる子どもたちの育成を果たしました。理科教育助成によるこの研究で、同校は第11回理科教育賞を受賞しています。研究に取り組んだ一人の槇田剛志先生は、情報通信技術(ICT)の活用や探究活動の意識的な導入の手応えを実感を込めて話します。駒場眞一校長先生は、子どもたちが経験と自然事象の間に感じる「ズレ」の大切さを強調します。

COVID-19で失われた日常を地域ぐるみで取り戻す

――梁田小学校についてご紹介いただけますか。

駒場眞一校長先生(以下、敬称略) 当校は2023(令和5)年度、児童数243名の学校で、学区には御厨工業団地のほか、国道50号線沿いの住宅地、また水田の広がる田園地帯があります。当校はこの梁田地区での市民体育祭や地区文化祭の会場でもあり、新型コロナウイルス(COVID-19)で失われた日常生活を地域ぐるみで取り戻すことに協力しています。私ととなりにいる槇田先生とでバンドを組み、地区文化祭では、演奏をしています。


駒場眞一校長先生。1989(平成元)年度、足利市立御厨小学校の教員として初任を迎え、以降、足利市立の中学校・小学校で教員、また足利市教育委員会の生涯学習課で社会教育担当を歴任。2022(令和4)年度より梁田小学校校長に赴任。中学教員時代、音楽を担当。

非対面の授業のあり方を検討。探究的活動や学習サイクルの実践を企画

――理科教育助成での研究「理科の見方・考え方を育むICTの活用 ~子ども同士をつなぎ高め合える学習指導を基盤に~」についてお聞きします。研究に至った経緯はいかがでしたか。

槇田剛志先生(以下、敬称略) 小学校の学習指導要領は2020(令和2)年度に全面実施となり、そこに掲げられた「理科の見方・考え方」を働かせ「自然の事物・現象についての問 題を科学的に解決するために必要な資質・能力」を育むという目標が、当校でも目標となりました。当校は、市内で学習指導の研究校となっており、「校内研修の充実」と「分かる授業の展開」の二つをテーマに取り組んでもいました。理科教育助成で、これらのテーマの延長的な研究をすることができました。


槇田剛志先生。2020(令和2)年度、初任校として梁田小学校に赴任。学級担任をつとめる。

槇田 他校も同様でしょうが、2020(令和2)年からのCOVID-19の拡大により、子どもたちの学びの形態を検討する必要も出てました。臨時休業後、子どもたちが学校に登校できても、理科でのペア活動やグループ活動は「3密」につながるためできません。けれども、それまで学校として培ってきた「学び合い」は続けていきたい。そうした課題意識も、新任だった私も含め、先生たちのあいだにありました。

駒場 私は当時、他校で勤務していましたが、2020(令和2)年3月の政府による臨時休業発表からの一連の経緯は、未経験ゆえの驚きをともなうものでした。子どもたちが学校にこれない期間の勉強の補償をどうするか模索するなど、これまでにない対応を迫られました。

――研究ではご紹介の新学習指導要領に掲げられた目標やCOVID-19を受けての課題解決に向け、二つの仮説を立てて取り組んだそうですね。

槇田 はい。おもに前校長の岡部陽一先生が中心となって立てた仮説ですが、一つ目が「非対面によるグループ学習を考慮した学習場所の選定、学習形態の在り方、分からないことにすぐアクセスできるICT環境整備により学習意欲が高まるであろう」というものです。

 感染症対策として非対面形式をとりながらも、どうにか子どもたちに学びあいを中核とした授業を展開できないかと、先生たちで考えました。そこで、ICTを活用するなどして、子どもたちの学習意欲の維持・向上につなげようとしたのです。たとえば、タブレット端末などを駆使して、対面的におこなっていた子どもたちの意見交換を、対面形式でなくてもおこなっていくといったことです。

――二つめの仮説はどういったものでしたか。

槇田 「探究的な活動を単元の導入の場と単元の終末の場に学習過程に位置づけるとともに、毎時間の学習サイクル(つかむ→すすめる→まとめる)を実践することで、理科の見方や考え方を育てることができるだろう」というものです。

 子どもたちが理科の見方・考え方を自然にはたらかせられるようになるにはどうしたらよいか考えたとき、単元の冒頭と終末に探究的な活動を採り入れてみることとなりました。また、学習サイクルとして、自然現象と自分の考えのズレに気づくことを指す「つかむ」、その自然現象を理解・納得するため実験条件を自分たちで立てることを指す「すすめる」、実験の結果からいえることを文にすることを指す「まとめる」の三つを続けていけば、やはり理科の見方・考え方をはたらかせられるようになるという考えがありました。

コロナ禍でも充実した理科の学習を実現

――ご紹介いただいた仮説をもとに、どのように実践をされたかお聞きします。一つめの「非対面でも学習意欲を高める」ための実践についてはいかがでしょうか。

槇田 4年生の「もののあたたまり方」の単元では、金属の温まり方などの予想を記したワークシートをホワイトボードアプリで共有することで、すべての子どうしが考えを非対面で見られるようにしました。予想するのに悩んでいた子はほかの子の予想を参考にできますし、自分なりの予想ができた子はほかの子の予想と比較できます。非対面で共有できることに加え、予想を共有する時間の短縮にもなり、その分、実験の時間を長くとることができました。


ホワイトボードアプリでワークシートを共有。(画像提供:足利市立梁田小学校)

「思考ツール」をまず先生、そして子どもたちに浸透させる

槇田 また、3年生の「かげと太陽」の単元では、担任の先生がタイムラプス動画を活用し、分からないことにすぐアクセスできる環境を用意しました。先生が校庭に支柱を立て、太陽の移動にともなう影の動きをタイムラプスで撮影し、グーグルの「クラスルーム」にアップロードしておきます。一方、子どもたちは教室で方眼紙にストローを刺し、照明を移動させることで、模擬的に太陽の移動にともなう影の動きを観察します。そのとき位置関係をよく把握できない子もいますが、「わからなければタイムラプス動画を見ていいよ」と促され、見たいタイミングでいつでも動画からヒントを得ていました。


分からないときはタイムラプス動画にアクセス。(画像提供:足利市立梁田小学校)

槇田 これも4年生の「もののあたたまり方」での事例になりますが、単元の導入の段階で、熱せられた金属板がどう温まっていくかの予想を深めました。「金属を温めた経験はありますか」と聞くと、ある子が「フライパンで焼き肉をした」と挙げてくれました。そこから、「肉をフライパンの火が当たっている真ん中に置いて焼く」「肉が焦げそうになったら火の当たっていない端っこに寄せる」などと、体験に基づいた温まり方の予想が出てきました。実験では金属板の端を熱するため、端から温かくなるわけですが、「フライパンは真ん中しか熱くならないから、金属板も熱が真ん中へ移動する。真ん中しか熱くならないと思う」と予想していた子もいました。学んでいく上で効果的となるズレが生じるのを見とることができました。

 また単元の終末で、発展的な学習としてクーラーの効率的な使い方を考えました。「(早く部屋を涼しくするための吹きだし口の向きは)上向きだと思います。 冷たい空気は下に行くから、 下向きにすると、上に冷たい空気がいかないから」といった答えが子どもたちから出てきました。また、お風呂の追いだき口の位置も考えました。「水は下から熱したほうが早く温まったから、追いだき口も下のほうがよい」といった考えが出てきました。目に見えない空気や水での温度変化を実体的に捉えていたことから、理科の見方を働かせる機会になっていたものと思います。


単元終末での探究的な活動。(画像提供:足利市立梁田小学校)

駒場 私たち大人も、思い描いていたことと体験したことの間のズレに感動することはあると思います。そうしたズレを子どもたちがまずつかんで、そのズレが生じた原因を探るように実験などを進め、最後に得られたことをまとめるというサイクルは、とても効果的だと思います。子どもたちとのやりとりのなかで、子どもたちのほうから上がる疑問を中心にした授業展開も大切だと思います。

理科の見方・考え方を働かせる子どもたち

――研究の成果についてお聞きします。子どもたちにどんな成果があったとお考えですか。

槇田 数値的なところでは、4年生へのアンケートで「問題に対して、自分の考えをもって学習している」と答えた子どもが実践前後で30%から60%へと向上し、また「理科が好き」と答えた子どもがおなじく75%から83.3%に向上しました。非対面でも情報共有できるICT機器の活用が、子どもたちの学習意欲の向上につながったと見ています。

 エピソード的なものでは、3年生のとき育てたヒマワリの種を大切に道具箱にとっていた子が5年生になって自慢げにその種を見せてくれました。子どもたちのあいだで「なんでヒマワリの種は芽を出さなかったのだろう」と疑問が生じ、「土がないからだよ」「日光が当たっていないからじゃないの」「水もいるんじゃないか」と発芽条件をめぐる予想がたくさん出てきました。これまでの学びの積みかさねがあったからこそだと感じました。

理科に取り組む子どもたちが「とてもよい顔をしている」

――研究で得られたことをどう生かしていますか。

槇田 4年生を担当していたときは、学習サイクルのうち、とくに「つかむ」の部分を重点的に実践していました。一方で、「まとめる」のところでは、子どもたちの間で考察の書き方などに差が出ていたので、その差をいかに埋めていくかを、いま5年生の授業で試行錯誤しているところです。

 プログラミング学習などでタブレット端末などのICT機器を扱うとき、何人でやるのがよいかといった検討もしています。いまのところ、2人や4人でなく、扱いに慣れている子1人を含む3人がよさそうだとわかってきました。コロナ禍から平時の授業に戻りましたが、今後ともこうした学習形態について検証を重ねていきたいと思います。

駒場 研究を経て、いま理科の授業を参観して実感するのは、「子どもたちが理科に取り組んでいるとき、とてもよい顔をしている」ということです。子どもたちの世代が未来の社会を築いていくうえで、理科はとてもよい教科だと思っています。

 今後も先生たちどうしで理科の授業を見せあうなどして、子どもたちの理科へのわくわく感を高められる授業をしていければと考えています。