「理科の見方・考え方」を可視化、科学的思考力を鍛える――「理科教育助成」実施校の先生に聞く(第23回)福島県相馬市立桜丘小学校

(左から)相馬市立桜丘小学校の小関洋校長先生と原悠太先生。

 理科をはじめとする授業での問題・課題を、子どもたち一人ひとりに「自分ごと」と思わせ、さらに「共に学び合う」なかで解決するように仕向けることは、実りある学びの理想型と言えるかもしれません。学級を「学習集団」にしようと日々励んでいる先生も多いことでしょう。

 理科教育でキーワードになっている「理科の見方・考え方」を可視化するなど、様々な手立てで「共に学び合える」授業づくりに挑み、成果をあげている学校があります。福島県相馬市立桜丘小学校は、理科において「個々の疑問」から「集団の疑問」へと導く授業展開や、「見方・考え方」の明確な提示などにより、友だちと共に問題解決を図っていく授業を実践しています。日産財団理科教育助成を活用した同校の研究「共に学び合える授業の創造」に対して、日産財団は「第9回理科教育賞」を贈りました。

 このたび、校長の小関洋先生と教諭の原悠太先生に、この研究活動のポイントなどを聞くことができました。理科の見方・考え方を表す言葉をカードで可視化して子どもたちに定着させるなど、様々な創意工夫が感じられました。

中心街を学区に含みながらも自然と触れ合える学校

――学校についてご紹介いただけますでしょうか。

小関洋校長先生(以下、敬称略) 本校は1956(昭和31)年に開校した、相馬市内では一番若い学校になります。現在、児童数は485人で、相馬地方で一番大きな学校となりました。

 学区には市の中心街が含まれておりますが、近隣には中村城址や田畑もあり、歴史も自然も豊かな地域と言えます。学校の敷地内にも、ハナミズキ、キンモクセイ、フジなど、季節を感じる樹木がありますし、また、カマキリ、バッタ、カナヘビなどをつかまえることもでき、子どもたちは自然に親しみながら過ごしています。

小関洋校長先生。1984(昭和59)年、福島県の学校教員となり、理科研究校での教諭も経験。県間交流で、鹿児島県指宿市立開聞小学校で3年間勤務。相双教育事務所、相馬市教育委員会の行政職も歴任。2021年度より現職。2022年度末に定年退職を迎える。

 東日本大震災が起きた2011(平成23)年には、ブータン王国のワンチュク国王夫妻やジグミ・ティンレイ首相(当時)が本校を訪問され、子どもたちを励ましてくださったこともありました。

 現在は算数の研究校であり、また、福島県のAI時代を生き抜く読解力向上事業の研究校として、リーディングスキルの視点を意識した授業改善にも取り組んでいます。

共に学び合いながら問題を見出し、解決を図る授業をめざす

――御校は日産財団理科教育助成で「共に学び合える授業の創造」という研究に取り組まれました。どのような経緯でしたか。

原悠太先生(以下、敬称略) 2018(平成29)年告示の学習指導要領が施行される前から、「主体的・対話的で深い学び」の大切さが叫ばれていました。それを受け、自らの学級を「学習集団」へと成長させたいという想いが校内で高まり、「共に学び合える授業の創造」という主題を設定するに至りました。

――「共に学び合える」をどう定義されていますか。

 「学級の中で何でも話し合える、認め合える雰囲気の中で、自分の問いをもち、友だちと共に学び合いながら問題を見出し、その問題の解決を図っていくこと」としています。

原悠太先生。都内の私立小学校で5年にわたり教諭をつとめたあと郷里の福島県へ。いわき市立の小学校で1年間の講師を経て、福島市立の小学校の教諭に。相馬市立桜丘小学校には、2020年度より赴任。算数教育の研究にも力を入れる。

自然現象と出合わせ、さらに個々の疑問を集団の疑問に

――「共に学び合える授業」のために、三つの手だて「1.身近な自然現象との出合わせ方と学習課題作り」「2.理科の見方・考え方の分類・可視化」「3.理科の見方・考え方を視点とした振り返り」を設定し、それらを実践したとお聞きします。まず、「1.身近な自然現象との出合わせ方と学習課題作り」ではどういったことを実践されたでしょうか。

 紙や映像などの媒体でなく、実際の自然現象に触れさせることが、子どもたちに疑問や好奇心を抱かせるのには大切です。例えば、一晩外に置いておいた水入りのバケツに張った氷を実際に触って見ると、全体が凍っているわけではないことに気付きます。「何で表面だけ凍るのだろう」という疑問は、実物に触れたからこそわいてくる疑問と言えます。

 こうしたことから、自然現象に触れさせる機会を多く設けるようにしました。例えば、中庭のヘチマがどこまで育っているかを授業前に必ず話題にしたり、メダカの学習をする前から教室にメダカの水槽を置いたりしました。

 そして、「個々の疑問」から「集団の疑問」へ導くようにしました。子どもたちから出てきた疑問は、どんなものでも、まずは吸いあげて黒板に書いていきます。これが、主体的に問題解決に臨むための下地となります。

個々の疑問から集団の疑問へ。子どもたちからの疑問を観点別に整理し、「何度で氷?」「何度で沸騰?」「ぶくぶくの正体は?」という集団の疑問にしていった。(資料提供:相馬市立桜丘小学校)

 ただし、教えたい内容に絞っていく必要はあるので、そこは電子機器を使います。子どもたちが入力した疑問を、使われている言葉の頻度が高い順に大きく表示できる「ワードクラウド機能」を使って、みんなと違う疑問を挙げた子にも納得してもらいながら、疑問を絞り込んでいきます。こうして「集団の疑問」を形づくっていきました。

理科の見方・考え方をカードにしてくり返し明示

――つぎに「2.理科の見方・考え方の分類・可視化」はどういった手立てで、これを「共に学び合える授業」のためにどう生かしましたか。

 「実証性」「再現性」「比較」「共通」「差異」などの、理科の見方・考え方を表す言葉を書いたカードを8枚作り、黒板にこれらのカードを貼って価値付けをしました。

 例えば、子どもから、二つの重さのものを比べてみるといった見方・考え方があがってきたら、その瞬間に「比較」のカードを黒板に貼り、「とてもいいね。これは『比較』って言うんだよ」と伝えます。

 また、一般的な言葉だけでなく、子どもの言葉も併記するようにし、どのようなものの見方や考え方なのかイメージしやすくしています。

理科の見方・考え方を明確にする。8個の言葉をカードにし、黒板に貼って価値づけ。ここでは「実証性」が赤・青・黄で記した三つの事柄に当てはまることを示している。(写真提供:相馬市立桜丘小学校)

 こうすることで、子どもたちは、自分が働かせた見方・考え方がどのようなものか、明確にとらえることができるようになります。また、「比較」という言葉が子どもも使えるものになり、授業内で発せられるようになります。
 
 教員としても、褒める視点が明確に定まります。たとえ、子どもが想定外の見方・考え方を働かせた場合にも、臨機応変に価値付けできるようになります。

――8個の言葉はどう選んだのですか。

 学習指導要領の理科の目標を参考にしました。必ずしも網羅はできていないという認識はしています。

――子どもたちにこれらの見方・考え方を定着させるポイントは何でしょう。

 くり返し価値付けることに尽きると思います。同じカードで何度も価値付けを重ねていくと、徐々にその見方・考え方の本質が見えてきます。様々な場面で価値付けされることで、内在化していくのではないかと思います。

振り返りは「理科の見方・考え方」が使えたかを軸に

――もうひとつの手立て「理科の見方・考え方を視点とした振り返り」については、いかがでしょうか。

 単元全体を振り返り、自分の学びがどうだったかを見つめる時間を設けています。振り返りについては、実はそれに至る前の段階ですでに6割ぐらいは済んでいるものだと考えています。

 振り返る時は、何らかの視点をもっていることが大切です。その視点というのが、先にお話しした見方・考え方にあたります。つまり、見方・考え方を示しておいて、それを使うことができたかを単元の終わりに振り返らせるのです。

 子どもたちには、「カードに書いてある見方・考え方が、たくさん振り返りで出てくるととてもいいよね」と伝えました。こうすることで、ただ単に「楽しかった」「むずかしかった」「つぎはもう少しがんばる」といった表層的な振り返りでなく、中身のある振り返りができるものだと思います。

理科の見方・考え方を自然に働かせることができるようになってきた

インタビュー前に相馬市役所教育委員を訪れ、教育長の福地憲司先生(中央)に面会。賞状と楯の授与も実施した。相馬市では例年「相馬市子ども科学フェスティバル」(相馬市子ども科学フェスティバル実行委員会主催)を実施するなど、学校外の教育にも力を入れる。

――研究の成果について伺います。

 子どもたちについては、疑問に思ったことを示して、自分だけでなくみんなの疑問として共有できるように変わっていった点がやはり大きいですね。小さなことでもとにかくみんなに伝え、力を合わせて解決しようとすることができるようになりました。

 それに、理科の見方・考え方を言葉として自然に使えるようになったり、科学的な視点を働かせられるようになったりした点は、彼ら・彼女らの大きな成長だと思っています。

 教員としては、情報通信技術を使ってうまく単元を構成する力がついてきたように思えます。ICT時代に合った授業づくりが少しずつですが、できるようになってきた気がします。

デジタルツールの活用。(左)子どもたちそれぞれの実験案などを「ロイロノート」で共有。(右)日産財団理科教育助成を利用して購入・活用しているディスプレイや書画カメラ。理科のデジタル教科書も購入した。(写真提供:相馬市立桜丘小学校)

――研究で培ったことを今後どう生かしていかれますか。

 見方・考え方を明確にすることは、子どもにも教員にも価値あることと考えています。これを理科だけでなく、他教科にも広めているところです。

 教育現場の課題の一つに、指導と評価の一体化があります。教師が子どもに働かせてほしい見方・考え方を明確にしておくことで、初めて、見方・考え方を働かせた子を見取り、評価することができます。同時に、どのような評価の方法が適切かが浮き彫りになります。このように、見方・考え方の明確化を評価につなげていきたいと考えています。

――小関校長先生には、今後のご期待も含めて伺います。

小関 これらの実践は、理科にとどまらず、各教科で活用できます。子どもたちの「心の火のつき方」には共通している部分があるので、工夫しながら先生たちには取り組んでいってほしいと願っています。

 また、こうした研究をより多くの先生に広め、どの先生も「これはよい」と思えるところを採り入れてほしいし、そのような学校文化を保ち続けてほしいと若い先生たちに期待しているところです。

取材スタッフを交えての集合写真。

●コラム 「見方・考え方」をキャラクター化!

 原先生が机に並べたのは、算数の授業で使っている「見方・考え方」のカード。算数では、見方・考え方に子どもたちのアイデアでネーミングし、活用しているとのこと。 授業中に子どもが決まりを見つけたときには「きまりんご」。学習のつながりを見出せたときには「つながリレー」といったようにカードを示すのだそう。「以前つとめていた学校でご一緒した森勇介先生(現・聖心女子学院初等科教諭)の発想をお借りしています。キャラの絵は子どもたちに描いてもらっています」と原先生。