子どもたちの資質・能力を教科横断カリキュラムとICTで育む――「理科教育助成」実施校の先生に聞く(第27回)福島県会津若松市立謹教小学校


会津若松市立謹教小学校でのインタビューのようす。

 カリキュラムの計画とツールの駆使。この二つが結実したとき、子どもたちは心から「学んでいる」実感に近づけるのかもしれません。その実践と成果を、福島県会津若松市立謹教小学校に見ることができます。同校は、学習指導要領で示される各教科の見方・考え方の共通キーワードを抽出して「中核となる思考スキル」にまとめるとともに、資質・能力を育成するための教科横断的なカリキュラム・マネジメントを推進。これらのために情報通信技術(ICT)の機器を効果的に応用し、子どもたちの学びを充実させました。同校は、日産財団理科教育助成を活用しながら研究「学び合い、高め合う授業の創造 〜学びの実感に向かう姿を求めて〜」に取り組み、第10回理科教育賞を受賞しています。現在の校長の長沼敬貴先生と教諭の芹沢志保先生は、先生たちが積極的に教授法を見せあうなど、学校ぐるみでの体系的な活動を同校が続けていることを紹介なさいます。

公開授業研究を積み重ねてきた伝統校

――謹教小学校についてご紹介いただけますか。

長沼敬貴校長先生(以下、敬称略) 当校は会津若松市内で最も歴史ある小学校の一つで、2022年に創立150周年を迎えました。近隣には、鶴ヶ城や会津藩校日新館跡地があり、市内の中心に位置しています。公開授業研究を過去46回おこなっており、研究熱心な学校でもあります。

会津若松市立謹教小学校の長沼敬貴校長先生。中学校でも長年、教鞭をとり、教科は社会科。県内の中学校の教頭、校長、行政職などを経て、2022年より現職。

教科横断的な授業計画と、それを支えるICT活用

――「学び合い、高め合う授業の創造~学びの実感に向かう姿を求めて~」というテーマで研究に取り組まれました。

長沼 当校では、研究のメインテーマを通例9年間にわたり継続させ、そのなかで3年ごとにサブテーマを改めるといった研究体制をとっています。今回の理科教育助成をお受けしたときのサブテーマ「学びの実感に向かう姿を求めて」には、子どもたち自身が「学びたい」と実感できるよう、真の意味での高めあいに向けた志が込められていたものと思います。

――各学年ごとに、育成をめざす「中核となる思考スキル」を設定し、それを軸に単元を構想したとお聞きします。

長沼 ええ。当校は通常6月に公開授業研究会を実施しているのですが、2020年度は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による臨時休業で実施できませんでした。そうしたなか当時の先生たちは「コロナで公開授業をできなかったが、研究は続けよう」という想いから、学習指導要領を教科ごとに読み込んで子どもたちに身につけさせる資質・能力を洗いだしていきました。そして、思考・判断に関わる表現から共通ワードを抽出し、「思考スキル分析表」にまとめ、「学年で中核となる思考スキル」を定めたのです。

思考スキル分析表と中核となる思考スキル。(画像提供:会津若松市立謹教小学校)

 思考スキルは、たとえば3年生では「比較する」、4年生では「関連付ける」といったものです。「比較ができたら、関連付けができるようになる」といったようにスパイラルな関係になっています。

――各学年の教科どうしの連携にも力を入れてこられたでしょうか。

長沼 はい。現在(2023年)も継続中ですが、教科横断的な学習の充実を図ってきました。それを具体化し、先生たちで共有しているものが「単元配列表」です。


単元配列表。5年生の事例。教科・単元のつながりがあることを示す矢印が年を経るごとに増えている。(画像提供:会津若松市立謹教小学校)

芹沢 たとえば、5年生理科に「植物の発芽と成長」という単元があります。そこで、国語の単元「文章で表そう」で、発芽・成長に関連する言葉をまとめておきます。また、総合的な学習の時間で取り組んでいる「水路による町づくり」で、理科で学んだことを取り入れ、さらに社会科の「わたしたちの生活と食料生産」で、おコメの生産の話と結びつけていきます。そのとき「思考スキル」を使いましょうと、子どもたちに促しています。


芹沢志保先生。福島県南部の棚倉町の小学校を初任校とし、県内の小学校の教諭を歴任。途中、インドネシアの日本人学校での教員経験も。謹教小学校に2021(令和3)年度に着任。もともと音楽を担当しているが、他教科も担当し、理科部のメンバーに入っている。

――ご紹介いただいたような御校に特徴的な教育の施し方を、新たに御校に赴任した先生たちに定着させていくための取り組みや工夫はあるでしょうか。

長沼 すでに何年か当校で勤めてきた先生が、新任の先生にていねいに教えています。そのとき、「謹教小学校授業ナビ」という手引書を先生たちで共有しています。本校の授業の進め方や、研究内容がわかるようになっています。この「ナビ」があれば、新任の先生であっても、着任2か月後の公開授業研究会に臨むことができます。


「謹教小学校授業ナビ」。2019年度から作成し、年度ごとに改訂している。「COVID-19のとき、授業を公開できない代わりに、当時の先生たちが自分たちの実績をきちんと表現しようとして作成しました」と芹沢先生。(資料提供:会津若松市立謹教小学校)

――研究期間には情報通信技術(ICT)機器も導入・活用されたそうですね。

長沼 はい。iPadや書画カメラなどです。GIGAスクール構想で端末などが児童一人ひとりに配布されるより前の導入でした。理科では「本物」や「実際」に触れたあとも振り返りが必要ですし、生きものの成長や現象の変化を追うことも大切です。そうした授業の特性から、当初は理科の授業で有効に使わせていただいたものと思います。

 折しもICT機器を導入したときは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大期でした。みんなでの活動がままならないなかでも、みんなで一つの情報を共有したい。ICT機器を生かせたのではないかと思います。


授業でのICT機器活用。(上左)iPadと図鑑でチョウについて調べる。(上右)モンシロチョウの羽化の様子を撮影し、動画で繰り返し見る。(下左)昆虫の脚のスケッチを大きく投影。(下右)「Scratch」でプログラミング的思考を養う。(写真提供:会津若松市立謹教小学校)

――日常づかいへどう移っていきましたか。

芹沢 はじめは「ここはiPadで調べさせよう」と考えて、それをおこなっていました。子どもたちは、使うことのおもしろさがあって授業に取り組んでいましたが、使い方に慣れてくると、自然と「あれを調べたいからiPad使っていいですか」となってきました。

 とはいえ、使うときには「見なくてもよいものと見たほうがよいものを分けなさい」「理解できるかどうかで分けなさい」と伝え、調べる対象を絞り込むように促してはいます。このウェブサイトにたどりついてほしいという目星をつけておき、子どもたちがたどりついたら「いい情報を見つけたね」と言ってあげるようにもしています。

「どうなんだろう」と疑問をもつ子どもが増えた

――研究を通じ、子どもたちにどのような成果をもたらしたと考えていますか。

長沼 ICT機器のスキルアップは確実にあったものと思います。GIGAスクール構想でICT環境は整備されましたが、スムーズに移行できたものと思います。それに、学習方法の多様化がかなったため、子どもたちには、学習方法を見つけたり選んだりして解決する力がついてきたものと考えています。

芹沢 みずから「これってどうなんだろう」と疑問をもち、解決しようとする子は多くなったものと思います。何度も写真や映像を見て、振り返れるからです。けさも玄関脇にあるホウセンカになにかの幼虫がいるのを子どもが見つけました。すでにアオムシが実際に羽化するところを目で見て、さらに動画で何度も見ているので、アオムシとはべつの幼虫とわかります。「なんの虫の幼虫だろう」と疑問が膨らんでいたようです。

先生どうしが「自分の方法」を見せあう

――教科横断的な学習重視の点からすると、理科の研究実践内容を他教科にも展開されていそうですね。

芹沢 はい。「互見授業」がその原動力になっています。授業を見た先生は、「この教材、こう使えるのか」「この教科のあの学習にも活かせそう」と参考にできるので、それで他教科へ実践が広がっていきます。

長沼 先生たちは互見授業をするにあたり、「導入を工夫するから見てほしい」「展開だけでも見てほしい」などと、見てもらう先生にポイントを伝えあっています。たとえわずかな時間でも、まめに授業を見ることを積み重ねています。その積み重ねが、先生からほかの先生へ、教科からほかの教科への広がりにつながります。

芹沢 他教科への展開という点では、理科部で、理科と社会科の結びつきをひとつ企画しているところです。理科で台風のときの空もようを記録しておき、社会科で私たちの住んでいるまちのハザードマップの学習のとき、その記録を子どもたちに見せて「こういう災害が起こりうる」と説明しようと考えています。

――ICT機器への接し方について、お考えのところを聞かせてください。

芹沢 いまも「本物」を大事にしています。子どもたちのなかで、「ほんとうか確かめてみたい」という気持ちが起きたとき、できるだけ「本物」に帰るようにしています。「そのためのツールとしてICTがあるのだ」と考えれば、気負わずICT機器を自然に使えるのではないでしょうか。

「子どもたちが真ん中の学校」をこれからも


教科横断的な学習が具現化された校内。[1]多目的スペースへの扉。「220年前」は同校東側にあった会津藩校「日新館」が完成した1803年。[2]開放的な空間に学習成果を展示。[3]カメラでサクラを定点観察。[4]立方体で鶴ヶ城のお堀の容積を表現。[5]3年生の総合的な学習の時間「鶴ヶ城の秘密を探ろう」の成果。校舎からは実物の天守も。[6]城周辺に生息するチョウを知る。[7]会津の伝統工芸の学習。[8]大きな地図でまちの高低差を表し、水の引かれ方を学ぶ。[9]フィールドワークの成果を展示。[10]多目的スペース内にある教室。教卓は不使用。

――学校ぐるみでの研究活動は今後も続くと思います。今後の抱負をお聞きします。

長沼 先生たちがおこなう研究を子どもたちに還元できてこそ、研究をする意義があると日ごろ考えています。今回の理科教育助成の研究でも、子どもたちのICT機器活用スキルが高まったり、見つけた課題を継続して調べようとするきっかけになったり、子どもたちへの還元があったものと思います。

 いま当校は、研究の新たなメインテーマを「未来社会を切り拓く資質・能力の育成」とし、サブテーマを「関わり合い 個を磨き 笑顔かがやく授業の創造」とし、進めているところです。これからも、子どもたちが「真ん中」にいる学校をめざしていきたいと思います。