地域資源を活用した体験学習で「主体的・対話的で深い学び」を体現――「理科教育助成」実施校の先生に聞く(第25回)茨城県鉾田市立鉾田南中学校


茨城県鉾田市立鉾田南中学校でのインタビューのようす。

 文部科学省の掲げる「主体的・対話的で深い学び」をいかに体現するか。アクティブラーニングがその手段とされるものの、通常の座学では体現しづらいという面もあります。そうしたなか、地域資源を生かした体験学習により「主体的・対話的で深い学び」を実践している学校があります。茨城県鉾田市立鉾田南中学校は、日産財団理科教育助成で「地域資源を活用したエネルギー・環境教育の実践」に取り組み、生徒のエネルギーの見方の変容のほか、授業の楽しさの実感、さらに学力向上といった数々の成果を見出しました。同校はこの研究で第12回理科教育賞を受賞しています。校長の関根康裕先生、教頭の鈴木恵子先生、研究を主導した窪谷理先生のお話から、地元の人・モノ・文化を効果的に取り入れた教育が感じられます。

農業がさかんな地域にある学校

――鉾田南中学校についてご紹介ください。

関根康裕校長先生(以下、敬称略) 当校は、旧鉾田町の時代からまちの中心にあり、近くに市役所や茨城県合同庁舎があります。学校の近くには商店業者が、その周囲には農業従事者が多くいらっしゃいます。しかしながら、まちの空洞化が進み、700人ほどいた生徒はこの20年でおおよそ半減しました。各部活での部員数減少は悩みの種です。それでも「個性伸長、自主自律、研究創造、堅忍力行」という校訓のもと、生徒たちに自主性を高めよう、学級・部活の一体感を高めよう、考えをことばで伝えよう、と話しています。


関根康裕校長先生。茨城県内の主に鹿行地区で社会科の教諭として勤務を重ね、行政職を経て2022(令和4)年より現職。

「地産地消」を中核にエネルギー・環境教育を展開

――研究テーマ「地域資源を活用したエネルギー・環境教育の実践」について伺います。この研究をすることになった経緯はいかがでしたか。

窪谷理先生(以下、敬称略) 当校は2017(平成29)年度、経済産業省・資源エネルギー庁事業の「エネルギー教育モデル校」となりました。エネルギー・環境教育では、農業がさかんな地であるとともに、近隣に原子力関連施設が複数あり、生徒に「納得解」の考えをもたせることを重視してきました。そうしたなか、あいにくモデル校3年目の予算を得られないこととなり、日産財団理科教育助成で研究を継続しようと考えたのです。


窪谷理先生。茨城県鹿行地区の小学校・中学校で教諭を歴任。鉾田南中学校に2017(平成29)年度から2022(令和4)年度まで在任し、教科は理科を担当。2023(令和5)年度より潮来市立延方小学校に赴任。

――研究で重視された視点はどういったものでしたか。

窪谷 「地産地消」です。モデル校時代、家庭科で「ふるさと汁」という題材で担当の先生が取り組んでおられました。生徒たちが「うちはこの具材を入れてる」「うちはこんな具材」と盛り上がっている様子です。それを見て「地産地消を全面的に押し出せば、授業が深まって子どもたちは生き生きするだろうし、保護者たちにも応援していただける」と考えました。こうして「地産地消」を中核テーマとし、生徒たちに「省エネルギーに進んで取り組む」姿勢を身につかせようとしました。

体験学習で「主体的・対話的で深い学び」を実践

――エネルギー・環境教育で、生徒たちに省エネに進んで取り組む姿勢を身につけさせるため、どのような学びを企図されたのでしょうか。

窪谷 「主体的・対話的で深い学び」です。「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」それぞれに関わる三つの仮説を立て、それらの仮説を確かめる手立てを考え、エネルギー・環境教育で教科横断的に実践しました。年間指導計画のなかに組み込むことを意識し、理科だけでなく、特別活動・総合的な学習の時間・技術といったほかの教科との連携をもちました。


アプローチ・目指す生徒像。(画像提供:鉾田市立鉾田南中学校)

――では、仮説と手立ての中身を伺っていきます。一つ目の仮説と、それを確かめる手立てをご紹介ください。

窪谷 一つ目の仮説は「地域資源を活用した教材開発をしたり、1人1体験の充実を図ったりすれば、生徒は主体的に活動するであろう」というものです。地域のことにちなんだ教材とは生徒たちにとって、多少は知っているもので次どうすればよいかがわかりやすいものです。そうした教材を、1人1個で扱えれば、生徒の主体的な活動につながると考えました。

 これを確かめる手立てが、地域の農作物を活用した教材開発と授業です。2年生では技術・家庭科の授業で、ジュース用のトマトの苗を、農業を営む保護者からご提供いただき、生徒が1人につき1苗を育てていきました。また1年生では、餅米のマンゲツという品種を地元農家の方に売っていただき、生徒はやはり1人につきイネ1本を育てていきました。


実践 地域資源を活用した教材開発 手立て1。(画像提供:鉾田市立鉾田南中学校)

 さらにイネには収穫後も精米までの工程があるので、脱穀、もみすり、精米を手作業で体験しました。これも手立てです。前年度までムギで脱穀を経験し、子どもたちが楽しいと言っていたので、イネでもすり鉢と棒を1人に1セット用意して脱穀に挑み、もみすりや精米にも挑みました。


実践 地産地消の体験学習(1学年) 手立て2。(画像提供:鉾田市立鉾田南中学校)

――二つ目の仮説と手立てはいかがでしょうか。

窪谷 仮説として「思考力を促進するための工夫を施せば、生徒は友達と比較検討を行い、対話を密にするであろう」というものを立てました。みんなで自分の考えを書いて、みんなでまとめれば、比較検討や対話のなかで納得解を得られやすいし、参加意識ももてると考えてのことです。

 手立てとして、理科の授業で、1人1枚ずつホワイトボードを使って考えを書いたり、みんなで付箋を使ってKJ法で考えをまとめたりしました。これについては独自の教材開発というより、文部科学省の「今、求められる力を高める総合的な学習の時間の展開」という手引書にKJ法的な手法が紹介されており、それらを参考にしました。


実践 思考力を促進させるための工夫 手立て3。(画像提供:鉾田市立鉾田南中学校)

――三つ目の仮説と手立ては、「深い学び」に関わるものでしょうか。

窪谷 はい。仮説は「地域人材の積極的な活用を行えば、生徒は深い学びに到達するであろう」というものです。生徒からするとおじいさん・おばあさんぐらいの年代の地元の方々に学校で実習の講師になっていただくことで、生徒たちの地産地消をめぐる学びが深まると考えたのです。

 その手立てとして、「食改さん」ともよばれる食生活改善推進員の方々に学校にきていただき実習に参加していただきました。食改さんのご指導のもと、1年生は自分がつくった米餅をヤナギの木につけて飾る「餅花づくり」を、2年生は、おなじく自分が育てたトマトを使っての「トマトジュースづくり」、それに「干し芋づくり」に臨みました。期間中、三度おこしいただいたことで、生徒との信頼関係も深まっていました。食改さんたちからも「孫を見ていたような感じでした」と仰ってくださいました。


実践 地産地消の調理講習会 手立て4。(画像提供:鉾田市立鉾田南中学校)

――校長先生や教頭先生は授業の様子をどう見られましたか。

関根 子どもたちは本当によろこんでいました。実践的に取り組むことができ、彼ら・彼女らの1年間の授業のなかでも、とても思い出深いものとなったことでしょう。あいにく実施期間中は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応から、加工・調理したものを校内で食べることはできなかったものの、持ち帰ってご家庭で共有していただきました。

鈴木恵子教頭(以下、敬称略) 子どもたちは、トマトやイネの苗を休み時間のたびに見にいこうとしていました。「自分が育てている」「ジュースにするのだから枯らさず育てないと」といった意識から主体的になれたのだと思います。地元地域の方々が学校にこられたときの子どもたちの生き生きとした笑顔も印象的でしたし、友だちの栽培・収穫のやり方を見るなどして学びあっている様子でした。体験による学びができていたと思います。


鈴木恵子教頭先生。茨城県内の各中学校で教諭・学年主任を歴任。担当教科は英語。2020(令和2)年度より鉾田南中学校に教頭として着任。

理科の学力向上が伴った

――今回のエネルギー・環境教育に取り組んでの成果を伺います。

窪谷 子どもたちは、自分たちが暮らしている地域にある材料を地産地消する体験をしたり、地産地消について話し合ったりすることで、材料輸送のエネルギーを減らすことができると実感できたと思います。将来エネルギーのことを考える場面で、「中学のとき学んだことだ」と思い出してくれるものと思います。

 また、1、2年生にルーブリック調査を実施したところ、とくに多面的・総合的に考える力、他者と協力する力、つながりを大切にする態度に、顕著な向上が見られました。それになにより、授業を楽しめたのではないかと思います。どの生徒も満足感を抱いている様子でした。

 学力もついたのではないかと思います。県共通で実施する学力診断のためのテストで、理科の成績評価はよいものでした。子どもたちが自主的に学ぶという点で、効果的なアクティブラーニングとなり、学力が伸びたのではないかと見ています。

関根 学力向上の成果については、生徒一人ひとりが苗から作物を育てるという体験活動をし、自尊感情が高まったことも関係しているのではないかと思います。学力向上に、自尊感情があることが重要であると考えられています。

主体的な学び・対話的な学び・深い学びを一つずつていねいに

――今回の取り組みを今後どう生かしていかれますか。

窪谷 私は2023(令和5)年度から県内の小学校に赴任しましたが、取り組んだことが生かせていると思います。今度は地域の固有種であるメダカやカブトムシを教材に、小学生に向けて環境教育に力を入れているところです。

関根 窪谷先生には、当校で主体的で対話的で深い学びをめざす授業を先進的に実践してもらいました。2022(令和4)年度から、主体的な学び・対話的な学び・深い学びを、一要素ずつ意識した授業に取り組んでおり、2023(令和5)年度、COVID-19が一段落したことから、どの教科でも対話的な学びを重視しているところです。対話を深めることが、次の段階として深い学びになっていけばと考えています。

鈴木 1人1実験で取り組むことの大切さを認識し、その後も顕微鏡を1人1台使えるようにするなど、学習環境を整えているところです。子どもたちが自然に学習に向かっていける環境を継続し、校長が述べたように生徒たちの対話力を高めていくことで、理科をさらに充実させていければと思います。今回の取り組みで窪谷先生たちに体験学習のモデルをつくってもらえたので、今後も外部との連携をはかり、学校として力をつけていければと考えています。