子どものためのリーダーシップを学び合う「未来のリーダー教室 教員編」を開催!

2019年12月25日(水)、横浜・みなとみらいのシェアスペース「BUKATSUDO」で、「未来のリーダー教室 教員編」を開催しました。「未来のリーダー教室」は、小中高等学校の先生たちに、「未来を担う子ども」を育てるためのリーダーシップについて考えいただく機会を提供する催しものです。参加者みなさんが体を動かしたり、講師の話を聴きたりして、感性、創造性、リーダーシップを学び、語りあいました。

「未来のリーダー教室」は、日産財団が新たに企画した、子どもたちのリーダーシップを育てることを目的としたプログラムです。2020年3月におこなわれる「子ども編」に先駆けて、今回は学校の先生らの参加による「教員編」が開かれました。はじめに、日産財団常務理事の原田宏昭が、「この教室は、Society5.0、つまり超スマート社会を経営的にも技術的にもリードしていく人材を、初等中等段階において育成することをねらいとしました」とあいさつしました。

 

それぞれが役割を担い、ひとつの作品をつくる、「いけばな」を体験

いよいよセッション開始です。トップバッターの講師をつとめたのは華道家の山崎繭加さん。ワークショップ「感性を開く/グループワーク『いけばな』」を進行しました。まず、グループごとに「私と花」というテーマで、参加者が抱いている物語を分かちあいます。

山崎さんは、いけばなを趣味としてきましたが、所属していたハーバード・ビジネス・スクールで浮上していた「オーセンティシティ」「マインドフルネス」「ティール組織」といった経営学のテーマがいけばなと通じていることに気づき、華道家に転身しました。

ワークショップでは、山崎さんが出した「チームビルディングとしてのいけばな」の課題にグループごとに取り組みました。山崎さんが見本を示したあと、グループメンバーそれぞれが、枝物、メインの花、サブの花、小花それぞれを生けることを担います。


時に笑顔で、時に真剣な表情で、いけばなに臨む参加者のみなさん。ほとんどの人が初めての経験だったもよう。

参加者たちは、山崎さんが示した「花の声を聞き、それぞれの花や枝が持つ本来の美しさを引き出す」といった心がけのポイントを頭に入れつつ、グループで協力しながらひとつのいけばなを完成させていきました。

「これからのモビリティ」を話し合い、伝え合う

昼食のお弁当

ランチのお弁当を食べたあと、午後のセッションは「論点整理/未来の社会」というテーマから。日産自動車総合研究所の木戸美帆さんが、「自動車」を題材に、未来の自動車業界を考えるうえでの視点・論点を提供しました。

木戸美帆さんの話を聴く参加者たち。

木戸さんは、日産自動車の研究所に向けて、将来の自動車業界に影響をあたえる「兆し」の情報発信をすることを担っています。


木戸美帆さん

自動車業界のホットトピックとして、木戸さんは「CASE:Connected、Autonomous、Shared/Service Electric」を示します。そして、最近の「自動運転」や「コネクテッド」をコンセプトとした自動車づくりについて「外から見ていると車をつくっているようにしか見えないと思いますが、中身を見るとぜんぜんちがっています」と、その変容ぶりを伝えます。人びとが製品などを共有する「シェアリングエコノミー」の広まりや、資源を循環させる「サーキュラーエコノミー」の現れなどの社会変化を示したうえで、木戸さんの話題は「テクノロジーの進展」へ。

機械と人のインターフェイスは、人間と人間のやりとりにほぼ似てきました。今後は、人間どうしよりも進んだやりとりができるようになってきそうです。サイバー空間とリアル世界をつなげることで、地球としての全体最適解が出せるのではという考えのもと、デジタル・トランスフォーメーションの動きも出てきています。テクノロジーの進展ごとに、求める人材も変わってきています」木戸さん話を受けて、参加者たちは「これからのモビリティ」というお題のもと、2040年ごろの移動をめぐる世の中の状況がどうなっているかを話しあい、発表していきました。


思考整理のためのツールを使いながら、「これからのモビリティ」がどうなるかを話し合う参加者たち。


各チームごとに発表。独創的な「これからのモビリティ」のあり方も聞かれた。

「車がマイホームとなり、住所はナンバーに代わっていてもおかしくないのかもしれません」「モビリティに移動する以外の価値がついてくるのではないかと。でも20年で大きく変化するのでしょうかね」「(鉄道の)廃線が新たな車を走らせる道路として運用されていくのではないでしょうか」「掛けあわせがポイントと思います。行きは宅配に使って、帰りは荷物がなくなるので人の移動のために使ったり……」「2040年も変わらないのは学校とレジャー。視点転換するとき私たちは移動して、人と会ったり、その土地の物を食べたりするのだと思います」木戸さんは「めちゃくちゃおもしろくて、つい踊っちゃいました」と興奮気味でした。

 

リーダーシップの研究成果を学校の現場に

ブレークタイム後、早稲田大学商学学術院教授の池上重輔先生が、「ビジョン創出/何をどう教えるか」のセッションで講義と進行をつとめました。池上先生の専門は経営戦略、グローバル経営、そしてリーダーシップです。


池上重輔先生。北海道にある実家では、おもにに不登校の生徒を対象にした高校と、発達障害者向けの専門学校を経営している。

池上先生は参加者たちに「現在の教育現場で(子どもたちの)リーダーシップはどのように位置づけられているか」と問いかけます。
これに対して、参加者たちからは「いまの子どもたちは個々の場面で得意な分野でリーダーシップを発揮している」「リーダーで学級が変わる」などの、現状を踏まえた答が聴かれました。その上で、池上先生はリーダーシップ論を展開します。

 

リーダーシップ論を述べる池上先生と、耳を傾ける参加者たち。

「共通の目標達成に向けて、他者に影響を与えることというリーダーシップの定義は変わっていません。でも、どんなリーダーシップが必要であるかは変わるし、みなさんの現場を取り巻く環境も変わってきているように見えます」

「多様化する必要な技術を合わせていく能力や、異質なもの・考え・人を混ぜ合わせる。それでいて、自立性もある。そんなリーダーシップが大事になってきているのではないでしょうか」

「リーダーシップには、強圧型、権威主義型、親和型、民主主義型、先導型、コーチ型といったスタイルがあり、国によりどのスタイルが機能するかが異なることがわかってきました。日本国内だけでの論理でリーダーシップを考えるのもありえますが、日本人も世界に出ていく時代ですし、外国人が日本に入ってきている時代です。グローバルな匂いも感じておいがほうがよいのではないでしょうか」

 

日産財団と早稲田大学の共同研究の成果を報告

「未来のリーダー教室」に関連して、日産財団は早稲田大学とともに、創造性を発揮し課題を発見・解決できるリーダー人材に必要な能力と教育方法の調査研究もおこなっています。共同研究者の一人で、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター研究所招聘研究員の小西由樹子さんが、調査結果の報告をしました。


小西由樹子さん。

2019年3月におこなったキックオフ・シンポジウムでは「子どもたちは、未来の学びと仕事にどのように向き合えばよいのか?」というテーマのもと、参加者にアンケートも実施したとのこと。「今後必要な教育はなにか」との問いには、上位順に「個性を伸ばす教育」「デジタルIT関連教育」「リーダーシップ教育」の答えが多かったといいます。

 小西さんは、その後の2019年のワークショップで、5月に「職業選択」、7月に「日本の教育の今:最前線の実践事例」、8月に「日本のリーダー教育」、10月に「映画Most Likely to Succeed上映会」を展開したことを報告しました。そして、子どものライフスキル育成に、学校や親たちがどう関わっていくのかという観点で、今後も研究を進めていくと抱負を述べました。


学校の先生たちの教育現場での実感を踏まえた質問も数多く出された。

そして、教室の「まとめ」として、池上先生が研究での仮説を述べて、締めくくりました。「グローバルリーダーに必要なスキルには、知識、特性、マインドセット、対人能力、変革意識など数多くあります。これらすべてをもったスーパーマンのような人がいるでしょうか。となると、異質な価値観のなかでこれらのスキルを補えるチームをつくり、結果を出していく力が必要になってきます」

 

参加者からは、今後の「教室」に向けての提案も


「未来のリーダー教室」の会場「BUKATSUDO」内のキッチンでおこなわれた懇親会。

今回の第1回はトライアルの位置づけでした。日産財団は「未来のリーダー教室」をさらに充実したものにするため、内容、対象、期間、場所、時期などについて検討を重ねています。晩の懇親会で、今回の参加者たちに、参加してみての感想を聞きました。

「生け花のセッションがよかったです。それぞれ役割がちがいながらも、ひとつの作品をつくりあげるという過程が、学校行事をみんなでつくりあげる過程に重なりました」
「高校生を対象にする教室も開くと聞きます。ぜひ、良い面も悪い面もあるようなものごとに対し、どう意思決定するかといった、倫理的な面を考えさせる機会があるとよいと思いました」
「この教室で、なぜアートに取り組むのか。なぜ、自動車やイノベーションのお話を聞くのか。なぜ、リーダーシップを考えるのか。そうした必然性を感じられるとよい気がしました。子どもたちの口ぐせも『なんでこれをやるの』ですからね」

「授業するうえでの参考になる話を多く得られました。よい刺激になりました」
 学校の先生はじめ参加したみなさん、各セッションを担当した講師のみなさん、ありがとうございました! 今回のトライアルの成果を、これからの「未来のリーダー教室」に生かしていきます。