• プログラム
  • 「書く」を軸に子どものサイエンスコミュニケーション力を養う――「理科教育助成」実施校の先生に聞く(第14回)栃木県下野市立古山小学校


    奥から、古山小学校の梶原和子校長先生、山内正仁教頭先生、齋藤勇也先生。

     ものごとの理屈を理解し、それを人に伝えるための力は、子どもたちが将来にわたり、あらゆる場面で力を発揮するスキルとなります。では、子どもたちにこうしたスキルを身につけさせるには、どのような方法があるでしょうか。

    「書く」という行為は、その有効な方法のひとつかもしれません。書くためには、よく聞き、よく考えることが必要であり、また、よく伝えることにもつながるからです。

     栃木県下野市立古山小学校は、ICT機器の活用とのバランスをとりながら、この「書く」という行為を重視した授業を展開しています。これにより、子どもたちの「サイエンスコミュニケーション力」を高めることを目指してきました。日産財団は、2016年度の理科教育助成を通じて、この研究の取り組みを支援してきました。そして、同校の研究成果に対して、2019年度の「第7回理科教育賞」で、理科教育賞を贈ってもいます。

     今回、同校の梶原和子校長先生、山内正仁教頭先生、齋藤勇也先生に、この研究の取り組み内容をうかがうことができました。タブレット端末を効果的に使って理解を深めさせ、そして「書いて考えて伝える」ことで、「サイエンスコミュニケーション力」を子どもたちに身につけさせる授業を数々おこなっています。具体的な授業の実践例などを、先生たちにお聞きしました。

    自分の考えをよりよく表していくために

    ――はじめに梶原校長先生に、古山小学校の子どもたちと接して感じておられる特徴についてお聞きします。

    梶原和子校長先生(以下、敬称略) 子どもたちは「人の話をよく聞く」というよい特色をもっていると感じています。それにより落ち着いて考えることができるため、学力面で伸びしろにもつながっていると考えています。

     性格的には優しい子どもたちが多くいます。ただ、一方ですこしおとなしい面はあるかなとも感じています。自分の考えを率直に出していくというよりは引っ込めてしまうような傾向はあります。

     自分のことを表現して、これからの世界で渡りあっていけるような人に育てていくには「コミュニケーション力」が大切です。この部分を伸ばそうということで、日産財団の理科教育助成における研究でも、「サイエンスコミュニケーション」をテーマに掲げて取り組んできました。


    梶原和子校長先生。栃木県内の公立中学校で理科の教諭を務めた後、栃木県教育委員会での職、また、下野市内の公立小学校の教頭を経て、2015年より校長職に。古山小学校は校長として2校目。

    伝えるためのサイエンスコミュニケーション力

    ――では、ご研究の「サイエンスコミュニケーションによる理科教育の授業デザイン」について、齋藤先生、それに山内教頭先生にもおうかがいします。この研究テーマはどのように構想されたのですか。

    齋藤勇也先生(以下、敬称略) 以前から本校では、アクティブラーニングを主眼に、「伝える」力を養うための研究をしてきました。その研究をさらに深めていく中で、「理数教育でのコミュニケーション」の重要性を考えました。これが、今回の研究テーマにつながっています。


    齋藤勇也先生。古山小学校は初任校で、取材時(2019年11月)には7年目だった。

    ――「サイエンスコミュニケーション」は広く社会でも定着しつつある言葉ですが、古山小学校としてはどのように定義しているのですか。

    齋藤 科学的思考や科学的表現力をもとに、ものごとを伝えるスキルと捉え、その力を高めていくことを大きなねらいとしています。

    梶原 みずからの伝えたい情報を学年も年齢も異なるさまざまな相手に正確に伝え、また、相手からもみずからとちがう考えを引き出せる。そのような状況になれば素晴らしいなと考え、追求してきました。

    ICT機器の活用で、効果的に理解を深める

    ――子どもたちに「サイエンスコミュニケーション」を身につけさせるための柱として、「ICT機器の活用」と「書いて考えて伝える」の二つを掲げ、授業をされてきたと聞きます。まずICTの機器の活用で、効果的だった授業の事例についてうかがいます。

    齋藤 はい。まず、6年生の理科での「月と太陽」の授業があります。

     オレンジ色のボールを月に見立てて、その月にライトを当てます。ライトが太陽の光です。ライトを移動させながら、月への光の当たり方を変えていきます。その変化を子どもたちはタブレット端末を使って動画で撮影しました。「この角度でライトを当てると、月に光はこう当たるんだ」ということを、実際に目で見て、そして端末に記録して、子どもたちは理解していきました。体験したことを「何度も動画を見て確認できる」点が、効果的でした。

     タブレット端末のようなICT機器は、課題に対する自分の考えをかためていく場面で効果的に活用できると実感しています。納得するまで試行錯誤できるため、理解を深めることもできます。


    (左)子どもたちが授業で使っているタブレット端末。日産財団理科教育助成で購入した。(右)体育館でおこなわれた「月と太陽」の授業。「大きな広い場所で、ダイナミックに実験をおこない、理解を深めようとしました」と齋藤先生。(写真提供:下野市立古山小学校)

    ――もうひとつ、ICT機器の活用という点では、「示温テープ」の色の変化をおなじようにタブレット端末で撮影されたと聞きます。

    齋藤 はい。4年生の理科の「もののあたたまり方」という単元で活用しました。この単元では、ものの温まり方について、金属、水、空気と段階を踏んで調べていきます。タブレット端末を用いたのは、水の温まり方について調べる授業においてです。温度に応じて色が変わる示温テープを水の入った試験管のなかに入れ、試験管をガスコンロで温めていくと、テープの色がどのあたりから変わっていくかを調べるという実験をおこないました。テープの色の変化のしかたを、子どもたちはタブレット端末で撮影します。

    ――どんな効果がありましたか。

    齋藤 水の温まり方を、「撮影した動画で確認できる」という効果です。ひとつ前の金属の温まり方の授業で、子どもたちは「金属は温めたところから温度が高まっていく」という知識を得ています。そのため、多くの子は「水も、金属とおなじような温まり方をするだろう」と考え、示温テープの下のほうに注目しがちです。

     ところが、水では上のほうも温まっていくので、目で見るだけでは温度の変化を見逃してしまうおそれもあります。その点、撮影をしていたので、それを見返して「水は金属とは異なる温まり方をするんだ」と、きちんと認識することができるわけです。よい意味での「まちがった概念」を、うまい具合に役立てることができたと思います。


    「もののあたたまり方」の授業。(左)撮影した動画を見返して、水の温まるようすを確認。(右)実験前は金属の温まり方と同様であると予想。実験で、熱が上に行ってから広がることがわかった(写真提供:下野市立古山小学校)

    「書いて考えて伝える」も重視し、実践

    ――もう一つの柱である「書いて考えて伝える」についてもうかがいます。「書いて考えて伝える」ことを重視したのはどうしてですか。

    梶原 「よく考える」習慣をつけることができるからです。書くためには人の話を聞かなければなりませんし、書いているときは自分の思考をきちんと整理することになります。こうしたことは、小学生が身につけるべき基本のことです。それに、日ごろは自信なさそうにしている子も、書いて伝えることにより自信をもたせることができます。

     書くという作業については、ICT機器でなく、紙を基本におこなうことで、また思考の深まりが変わってくる気もしています。

    ――「書いて考えて伝える」ことを重視した授業の実例も紹介していただけますか。

    山内正仁教頭先生(以下、敬称略) はい。まず、1年生の生活科の「こまをつくろう」という単元の授業を挙げたいと思います。子どもたちが一人ひとり「よく回るこまの形状の予想」をワークシートに、図と短い言葉で表していきます。その後、実際にこまを回してみて、よく回ったこまについて記録し、それをほかの子どもたちに伝えます。


    山内正仁教頭先生。教員歴37年。古山小学校では教務主任の3年間を含め7年にわたり務めた。2020年3月をもって定年退職。「最後の年に、このような研究をみなさんに発表することができ、記念になりました」

    ――子どもたちには「なぜ、その形状がよく回ると思うのか」といった根拠も考えさせましたか。

    山内 はい。担任の先生が「この形だと、どうして回ると思うのかな」などとタイミングよく働きかけました。予想どおりによく回った場合は、子どもたちは達成感や満足感を得ていました。でも、よく回らなくても、「回り方がおもしろいから、これでいい」という子どもを否定することはしませんでした。


    「こまをつくろう」の授業。(左)ワークシートに「よく回るこまの形状の予想」を、「どうしてそう思うか」も含め書き込んだ。(右)ほかの子の意見を聞き、よりよく回るこまの作製を目指した。(写真提供:下野市立古山小学校)

    ――もう一つ、5年生の総合的な学習の時間でも、「書いて考えて伝える」を実践したと聞きます。

    齋藤 はい。私たちが「古山環境プロジェクト」とよんでいる、約30時間分の授業において、子どもたちに「提案書」をつくらせました。

     この授業では、環境をテーマに、まず10時間分で校外の川や森に行ったり、ごみ拾いをしたりして、一人ひとりが興味にしたがってテーマを設定します。その後、興味が近い子たちが4人前後でグループを組み、こちらも10時間分をかけて協力して調べ学習をします。そして、最後の10時間分で「古山小学校のまわりの環境をよりよくするために、このような取り組みができます」といったことを、提案書に書いて発表していきます。

    ――提案書をつくることのねらいはどんなものでしたか。

    齋藤 総合的な学習の時間では、調べたことを模造紙にまとめて発表して終わり、ということがよくあります。でも、「こういう取り組みができる」ということまで発信するほうが、子どもたちもより興味をもって一所懸命、臨めるだろうと先生たちで考えました。それを形にするのに、提案書をつくるという方法はどうだろうかと発想しました。


    「古山環境プロジェクト」の授業。グループ単位で、環境をよりよくするためになにができるかを考え、大人に訴えるための「提案書」づくりなどをしている。(写真提供:下野市立古山小学校)

    子どもたちは理科が好きに、先生たちは理科の授業をより大切に

    ――今回の研究の「成果」をどう捉えていますか。

    山内 子どもたちが理科を好きになったこと。まずはこのことに尽きると思います。こうした授業に積極的に取り組むようになり、その結果として理科の成績も全体的に上がってきました。すごくよかったと思います。

     また、教員にとっての成果もあったと思います。本校は若い先生が多いのですが、「書くことを重視しよう」「実験の手順をしっかりおさえて授業しよう」といった具合に、理科の授業をより大切に考えるようになった気がします。指導力も上がってきたように思います。

    梶原 子どもたちは、思いつきでなく、根拠をもって、しっかりと考えるようになったと思います。この点はこれからも継続して維持・向上をしていけたらと思います。

     教員たちの意識が変わってきたのも大きな成果です。時間をかけてもすこしずつよい方向に進めることができて、とくに若い先生たちは自信につながったと思います。私たちよりもよほどタブレット端末の操作などには長けていますしね。

     また、今回の研究では、特別支援学級で学んでいる子どもたちにもICT機器が有効であることを確信しました。文字を書くのも数字を覚えるのも、タブレット端末を使うとどんどん挑んでいきます。担当の先生も「タブレットはもはや必需品です」と言っています。

    ――研究の成果を、今後どのように活かしていきますか。ご期待や抱負をうかがいます。

    山内 子どもたちには、理科や科学を大好きになってほしいと思います。理科や科学へのの興味が、さまざまな部分に波及していくことを期待しています。これからも、そんな子どもたちを応援していきたいですね。

    梶原 研究で取り組んできたことは、学びの基本だと思います。「書いて考えて伝える」という活動を、今後は全教科で実践させていきたいと考えています。また、ICT機器の活用については、若い先生の知恵も借りながら、より適切で効果的な使い方をさらに目指していきたいと思っています。

    ■取材を終えて 西本清一


     学校の教育の現場において「サイエンスコミュニケーション」を意識して取り組まれたのはおもしろい、ユニークな切り口だと思いました。

     とくに「書いて考えて伝える」の一環で、「提案書にまとめる」ことにしたのは、とてもよいことだったと思います。そうした形にまとめるのは、子どもたちが身につけてきた表現力を集大成することにほかならないからです。その前段に集団でのコミュニケーションがあるからこそ実現できたと思います。

     今回の研究のお取り組みをさらにブラッシュアップして、ぜひ他校にも波及していただくことを期待しています。(日産財団 理事・元選考委員長、京都市産業技術研究所 理事長)

    ●コラム 研究成果をプログラミングに……コンテストで優勝!

     2020年度から小学校で必修化された「プログラミング」の授業。古山小学校では、いちはやく授業をおこなってきました。Pepperくんをソフトバンクから借りて、「学校に役立つPepper」というテーマを設け、子どもたちがその目標に向けて取り組みました。

     子どもたちは、「Pepperくんにこんなことを言わせたい。こんな動きをさせたい」といったことを白板に書いてまとめていきました。

     この授業の成果を携えて、子どもたちが「Pepper 社会貢献プログラム(スクールチャレンジ)プログラミング成果発表会」(ソフトバンク主催)や、「下野市プログラミングコンテスト」(下野市主催)などにエントリー。下野市のコンテストでは小学生の部で、「東京オリンピックで役立つPepper」というテーマで挑んだ6年生Aチームが見事に優勝を果たしました! また、部活動の部では6年生Bチームが第2位、5年生Cチームが第3位となりました!

    「今回の研究が活きたところは多くあります」と齋藤先生。梶原校長先生も「なにを発信するかをみんなで考え、そしてプレゼンテーションをする。研究の集大成になったと思います」と言います。

     古山小学校のみなさん、おめでとうございます!


    (上左)2019年に開催された第3回下野市プログラミングコンテストで発表する古山小学校の6年生Aチームのみんな。(上右)優勝の記念にPepperくんたちとパチリ。(下左)「教室でみんなをサポートするpepper」をプレゼンした5年生Cチーム。(下中)「歯っぴー大作戦に役立つPepper」をプレゼンした6年生Bチーム。(下右)プログラミングの授業のようす(写真提供:下野市立古山小学校)