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  • 「プログラミング思考の開発」とは? 3つの基本を段階的に養う新たな教育法――「理科教育助成」実施校の先生に聞く(第8回)北九州市立祝町小学校


    是澤真利先生。校長の本庄裕子先生。

     小学校では2020年度より「プログラミング教育」が必修化されます。各教科等にプログラミング学習を取り入れることで、子どもたちの「プログラミング的思考」を育むことが目指されています。必修化される来年度に向け、準備に取り組んでいる学校も多いのではないでしょうか。

     そうしたなか、いち早く授業においてプログラミング教育を導入し、成果を上げている学校があります。北九州市立祝町小学校は、日産財団の理科教育助成を活用し、2016年からの2年間「PDCAサイクルを基盤とした自律型ロボットプログラミング学習の試み」という研究を進め、その後も成果を継承しています。日産財団は2018年の「第6回理科教育賞」で、この研究を「新しい様式の 理科教育法を完成させた」と評価し、同校に大賞を贈りました。

     今回、私たちは、この研究を主導してきた是澤真利先生、そして学校全体でのプログラミング教育をひきつづき牽引している校長の本庄裕子先生にお話をうかがう機会を得ました。是澤先生からは、プログラミング教育の実践面でのポイントとして、「論理的思考」とはなにかを考え、またプログラミングにおける「順次」「反復」「条件分岐」という三つの基本要素を把握しておくことの重要さを語っていただきました。また、本庄校長先生からは、組織運営面のポイントとして、プログラミング教育に臨む先生たちに積極意識をもたせるための方策について紹介していただきました。

    温故知新の学校に、いち早くプログラミング教育

    ――はじめに、祝町小学校の特色について、校長の本庄先生にご紹介いただきたく思います。

    本庄裕子校長先生(以下、敬称略) 祝町小学校では、心、学力、体力をバランスよく育て、子どもたちの自己肯定感を高め、希望をもって育てることをモットーにしています。「心はやさしく。頭はかしこく。体はつよく」をめざす子ども像に掲げています。

     伝統を大切にしているのも祝町小学校の特色です。温めてきた地域とのつながりを大事にしつつ、今回のテーマとなるプログラミング学習をはじめ、新たな学びにも取り組んでいます。

    ――本庄先生のご経歴についてもお聞きします。

    本庄 長きにわたり教諭をつとめてきました。途中、北九州市立教育センター職員や、学校で教務主任や教頭をつとめました。2017年度の1年間は市立幼稚園の園長をつとめ、2018年度から祝町小学校の校長に就きました。


    「古きを大事にしつつ、新しい学びを進めていきたい」と本庄校長先生。

    ――ありがとうございます。きょう同席していただいた是澤先生は、本庄先生が祝町小学校に赴任する前年度まで祝町小学校で教えていらっしゃいました。是澤先生にもご経歴をお聞きします。

    是澤真利先生(以下、敬称略) いまは、おなじ北九州市立の熊西小学校で教頭をしています。祝町小学校には2013年度から2017年度までの4年間おり、6年生の担任を1年、その後、教務主任を3年つとめました。また、それより以前に、行政職として北九州市立児童文化科学館の職員を4年間つとめていました。館の事業として、ロボット関連の事業を担当しました。

    ――ロボット教材を用いたプログラミング教育は、科学館での事業がきっかけだったのでしょうか。

    是澤 それもあります。また、家庭では私の子どももロボットに興味があり、「ロボカップ」のジュニア部門の大会に参加するなどしていました。私自身も保護者としてメンターになったりもしていました。趣味でやっていた部分は大きかったですが、プログラミングが「学校の教育とリンクできないか」といろいろ探ってはいました。


    是澤先生は「ロボカップジュニアジャパン」のサッカー副技術委員長をつとめるなどしている。

    論理的思考力はいろいろな力の集合体

    ――祝町小学校で取り組まれた研究についてお聞きします。「PDCAサイクルを基盤とした自律型ロボットプログラミング学習の試み」というテーマを定めた経緯はどういったものでしたか。

    是澤 「PDCAサイクル」については、ご存知のとおり「Plan(計画)」「Do(実行)」「Check(評価)」「Action(改善)」と進め、これを回していくものですが、学びとしてはスタンダードな手法だと思います。本研究では、単元と通してのPDCAサイクルと、1時間の授業でのPDCAサイクルの両方を意識しました。

     このサイクルを基盤にして、それまで自分なりに思考錯誤してきたプログラミング教育・学習のあり方とマッチさせました。自律型ロボットを題材にしたのは、北九州市がものづくりの街で、小学校の地元にも製鉄所などに勤務する方もおり、前任の校長から「ものづくりの要素を入れつつ、理科とも関連させた教育研究ができないかな」と言われていたからです。

     こうして、PDCA、ものづくり、ロボット、プログラミングといった要素が結びついていきました。祝町小学校就任2年目の研究スタート時は、まだ手探りでしたが、出前授業できていただいた九州工業大学の先生からも助言いただくなどして、「行くぞ」と気を高めていきました。

    ――PDCAサイクルによって学習を展開しながら、子どもたちの「論理的思考力」が向上する授業の展開もめざされたと聞きます。論理的思考力については、どのように定義されたのですか。

    是澤 論理的思考力とはどのような力であるか、あらためて考えることから始めました。さまざまな書物を見るなかで、とくに『消える学力、消えない学力 算数で一生消えない論理思考力を育てる方法』(田中保成著)という本を見つけ、そこに書かれてあることがしっくりきたのです。それは「わからないものに対して、これまでに蓄積した知識を総動員して理解しようとする主観的な能力」というものです。

     いろいろな力の集合体が論理的思考力なのだと、自分のなかで納得できました。論理的思考力を、分解力、直感力、検索力、可視化力、構成力、洞察力、推理力、発想力といったものに細分化することができます。


    論理的思考力の細分化。それぞれの力が総動員される。(参考:第6回理科教育賞における祝町小学校の発表資料をもとに作成)

    「順次」「反復」「条件分岐」が論理的な考え方の基本

    ――実際の研究では、4年生、5年生、6年生の総合的な学習の時間で、「ロボットプログラミングに挑戦」という単元を設けて、各学年ともプログラミングの基本や基本的なしくみを学ぶところから始め、ロボットに迷路等を解かせる「ロボットコンテスト」や、自分たちのプログラムについて説明する発表会へと展開したと聞きます。ふりかえってみて、先生が得られた成果はいかがでしたか。

    是澤 今回、大きかったのは、ある問題を解決しようと思考するときは、「順次」「反復」「条件分岐」という三つの考え方を基本にすればよいということを得られたことです。これは、論理的思考力を細分化したうちのひとつである構成力の養う要素にもなります。

    「順次」とは、順々に命令が進むこと。「反復」とは、条件がある成り立つまで、または、成り立たなくなるまで繰り返すこと。そして「条件分岐」は、条件により命令が分かれることを意味します。これらの基本的な要素を組み合わせることで、プログラミングはできています。この考えを抑えておけば、プログラミング教育のしっかりした形はできあがるものと思います。


    (上)プログラミングにおける「順次」「反復」「条件分岐」の考え方。複雑なプログラムも、この三つの要素を組み合わせでなりたっている。(下)児童たちにも基本的な考え方が浸透し、授業ではこれらを組み合わせたフローチャートを用いて説明をしたり、目あてに達するまでのプロセスをノートにとったりしている。(画像提供:北九州市立祝町小学校)

    ――実際の授業では、各学年で段階的に「順次」「反復」「条件分岐」の考え方を取り入れていったそうですね。

    是澤 そうです。たとえば、ロボットをプログラミングし、迷路を移動させてゴールまでたどり着かせるといったことをしましたが、4年生の段階では「順次」と「反復」のみを取り入れ、単純なつくりの迷路を設定して、「角を曲がることを3回反復したら1周になるね」などと伝えました。5年生になると、迷路に壁を設定し、「壁にぶつかったらこっちに避けろ」といった「条件分岐」の要素も加えました。そして6年生の段階で、地面の線に沿ってロボットを動かすライントレースに挑みました。


    総合的な学習の時間「ロボットプログラミングに挑戦」における指導計画。「順次」「反復」「条件分岐」などの考え方を取り入れるとともに、理科との関連も意識している。(資料提供:北九州市立祝町小学校)

    ――ロボットとして、授業用では「TJ3B」(ダイセン電子工業社)というプログラミングロボットを選ばれたと聞きます。理由はなんですか。

    是澤 もともと自分が使い慣れていたということが大きかったですね。ソフト・製品としての完成度も高く、価格も手頃でした。日産財団の理科助成の資金を活用して、子ども1人に1台を渡すことができました。ほかの子に操作をまかせるのでなく「自分がやる」という意識をみんながもてたためよかったと思います。ふだんは消極的な子も、積極的な発言をしたり、「1人1台」の効果が感じられました。


    「ロポットプログラミングに挑戦」の授業風景。児童のみなさんがああ扱っているのが「TJ3B」。また、学校のロボットクラブ活動では「ブロックロボット」(アーテック社製)というロボットキットも使った。(写真提供:北九州市立祝町小学校)

    ――プログラミングを理科をはじめとする各教科の授業に活かすという点も意識してこられたのではと思います。

    是澤 はい。2020年から、理科などの教科でのプログラミング教育を導入することが本格化していきますが、どんな部分にプログラミングを盛り込んでいけるかが見えてきたと思います。

     たとえば、6年生理科の「A物質・エネルギー」の単元では、電気の性質や働きを利用した道具があることをとらえる学習など、与えた条件に応じて動作していることを考察し、さらに条件を変えることにより、動作が変化することについて考えることが学習指導要領に明記されましたが、家の前に人が近づいたらはじめて部屋の灯りが点くようなしくみなどを、プログラミングロボット教材を使って伝えることができそうです。今回の研究で経験したことを、さまざまな授業の場面で転用することができると思います。

    先生たちも「自分が取り組む」という気持ちで

    ――校長の本庄先生には、プログラミング教育を学校全体の教育のなかでどのように取り入れてこられたかなど、運営面についてうかがいます。

    本庄 2018年度は、総合的な学習の時間のなかで、低学年も含め全学年が取り組みました。主題を二つ立てたうちの一つを、プログラミング学習にしました。

    ――子どもたちの取り組みぶりはいかがでしたか。

    本庄 ロボットをプログラミングすることに対し、子どもたちは集中し、試行錯誤を繰り返している様子でした。こうした部分は、ほかの教科にもよい影響を及ぼすものと考えています。

    ――学校の先生たちにプログラミング教育に主体的になってもらうために取り組んだことはありますか。

    本庄 組織をマネジメントする校長の立場としては、いかに先生たちにカリキュラムづくりなどで積極姿勢をもたせるかという課題をもってきました。プログラミングを学習するということに対して、ハードルの高さを感じる先生もなかにはいます。けれどもすべての先生に、「自分が取り組む」という気持ちになってもらわなければなりません。

     そこで、2018年度は、プログラミング学習のねらいを全職員で共通理解を図る理論研修を行うとともに、若い先生を中心に、チーム制でプログラミング教育の研修メニューをつくるようお願いしました。そうした成果を、2019年度に予定しているカリキュラムづくりにつなげていく予定です。前年度とは別の先生にプロジェクトの中心を担ってもらうことも考えています。


    祝町小学校の先生たちがプログラミング教育の研修に臨んでいるようす。(左上)自校で研修のみならず、(右上)他校に赴いての研修も。(下)近隣校の先生を招いて、理科研究会としても研修を実施。いずれも研究期間中の活動のもよう。(写真提供:北九州市立祝町小学校)

    プログラミングは目的ではなく手段

    ――2020年度からのプログラミング学習必修化を前に、学校としてプログラミング教育に取り組んでこられました。本格化するプログラミング教育に向けて、大切だと思うことは、どんなことでしょうか。

    是澤 学習指導要領で述べられているのは、「子どもたちをプログラマーに育てる」ことでなく、「子どもたちのプログラミング思考を育成する」ことです。

     では、そのプログラミング思考とは、どのような要素でできているのでしょうか。さきほど言いました、「順次」「反復」「条件分岐」の三つの柱さえ、先生がきちんと把握しておけば、どんな教科にもプログラミング学習を転用できるものと思います。理科だけでなく、算数科や音楽科、図画工作科など、ほかの教科にも通じることです。

    本庄 指導する先生たちが、プログラミング教育をすることを目的だと考えず、手段だと考えることです。プログラミングの知識や思考を使って、子どもたちは相手によりわかりやすく伝えることができる。先生にとっても、プログラミング教育を適切に使えば、業務削減につなげることもできると思います。

     学習指導要領に述べられている育成すべき、子どもたちの資質・能力、つまり「学びに向かう力・人間性等」「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」の三つを養うために、プログラミングをうまく使っていくという考え方をもち、授業を構成していくところが大事だと思っています。

    ●コラム:学校のゆるきゃら「さくらっぴ」がお出迎え!

     取材で学校の玄関に入ると、法被姿の「さくらっぴ」が出迎えてくれました! 祝町小学校のあいさつ運動推進ゆるきゃらで、「祝っ子」みんなでアイデアを出しあい、総選挙で選ばれたのだそう。学校のまわりにも桜の花が咲きほこっていました。

     本庄校長先生によると、祝町小学校のある地元には大蔵川の自然、商店街や福祉施設などの街なみ、外国人留学生も多く在籍する専門学校などの文教施設があり、地域の方々のあたたかさを感じられるとのこと。「ひと、もの、ことのつながりを大事に、子どもたちにも感謝の心を培っていきたいと思います」と、本庄先生。

     さくらっぴからも「祝っ子たちといっしょに街の人たちに元気にあいさつしたいっぴ」と熱意が聞こえてきます。