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  • 「つながり」を意識して、子どもたちの学びを深める――「理科教育助成」実施校の先生に聞く(第6回)横浜市立井土ケ谷小学校


    井土ケ谷小学校の堤達俊校長先生(左)と西田俊章先生。

     世界では「つながり」がますます大切になってきています。みなさんも実感しているのではないでしょうか。人、組織、知識、発想、情報がつながることが、新たな価値を生みだすということを。情報通信技術の発展などによりで、だれもが「つながり」をもてるようになったことが、その背景にあるのでしょう。

     子どもたちも「つながり」のなかで学びを深めていければ、きっと「つながり」をもつことの大切さに気づくことでしょう。そしてその経験が、これからの時代を生きていくうえでの糧となることでしょう。

     そんな「つながり」という概念を、理科をはじめとする教育で顕在化させ、子どもたちの学びを深めている学校があります。

     横浜市立井土ケ谷小学校は、「自然を読み解く力を育てる表現と学び合い 〜つながりの中で学びを深める子ども〜」をテーマに教育研究に取り組んできました。この取り組みに対して日産財団は理科教育助成で支援。2018年の第6回理科教育賞(日産財団主催)では、同校に賞を贈っています。

     子どもたちの学びを深めるため、同校の先生たちは「マクロのつながり」と「ミクロのつながり」の視点をもち、授業にのぞんでいるそうです。それぞれの「つながり」はどういったものでしょうか。学校を率いる堤達俊校長先生と、この教育研究を担っている西田俊章先生にお話をうかがいました。

    学んだ理論を教育の実践につなげる

    ――はじめに、堤先生と西田先生、それぞれのご経歴をうかがいます。

    堤校長先生(以下、敬称略) 私は子どものころから自然が好きで「昆虫博士になりたい」と思いながら過ごしてきました。

     大学生のころから環境教育に興味をもち「学校で環境教育をしたい」と思うようになりました。その後、小学校で教師になってからも、理科部で子どもたちと野外の自然観察をしたり、教師向けの夏休み研修会で講師をつとめさせていただいたりしました。とくに野鳥が好きで、日本鳥類保護連盟や全国愛鳥教育研究会にも所属しています。

     井土ケ谷小学校には2016年より着任しました。校長としては初任となります。教師歴は31年目となります。

    西田先生(以下、敬称略) 小学校のころから理科は好きでしたが、高校、大学と文系に進みました。そのころ『パスポート・ブルー』という漫画作品の「ルーペ先生」という、子どもの人生に大きな影響をあたえる人物の話に触れ、「理科の先生はおもしろそうだな」と思うようになりました。入学した横浜国立大学では2年生になってから専攻を選べるので、海洋生物学の分野で卒業研究をして、横浜市立の小学校に就職しました。

     9年間、教諭を務めていましたが、母校の横浜国立大学が「神奈川CST(コア・サイエンス・ティーチャー)プラン」という理科教員養成の大学院課程を始めると聞き、ここで学びなおすことにしました。教育人間科学部の森本信也先生(現・同大学名誉教授)のもとで2年間、教育心理学などを学び、ふたたび小学校教諭に復帰しました。

     以前から教育を研究することに関心があり、市の小学校理科研究会や教育課程研究委員会などで研究をしてきました。いまも日本教育学会に論文を投稿したりしています。学んだ理論を実践につなげるのが私の役目とも思っていますので、試行錯誤しながら教えています。教師歴は15年目です。


    堤校長先生は、全国愛鳥教育研究会常務理事として「ジャパンバードフェスティバル」の環境学会の審査委員長をつとめるなど、環境教育に幅広く携わる。西田先生は3年生の担任。総合的学習の時間では、子どもたちと「コケ探し」をしている。

    「つながりの中で学びを深める子ども」をテーマに取り組む

    ――井土ケ谷小学校は、日産財団の理科教育賞でこれまで3回、大賞や賞を受賞してこられました。いずれの取り組みでも「表現と学び合い」がメインテーマのキーワードに入っていました。加えて、直近の第6回(2018年)で受賞された取り組みでは、新たにサブテーマとして「つながりの中で学びを深める子ども」を掲げておられます。

    「つながり」というテーマが出てきた経緯は、どのようなものでしたか?

     「表現と学び合い」をメインテーマに取り組んできたこともあり、井土ケ谷小の子どもたちは「わたしはこう思います」と、自分の考えを表現することは得意でした。一方で、ほかの友たちの考えを聞いて、学びを深めるといったことについては、もうすこし力を入れていかなければとも感じていました。

     それとともに、理科で学んだことをほかの教科でも生かしていかなければとも考えていました。小学校は、ひとつの教科だけを学ぶところではありませんからね。

     この二つの課題があるなかで、学校として「つながり」というものを意識した学習を提案することにしました。これが取り組みのスタートでした。

    西田 以前からメインテーマだった「表現と学び合い」の「学び合い」は、まさに「つながり」を必要とするものです。

     これまで、子どもたちの「学び合い」のために、先生が子どもたちのあいだに入って、子どもたちの表現を咀嚼してあげて、ほかの子たちに伝えていました。でも、先生を介さずに、子どもたちのあいだで咀嚼して学び合えたらよりよくなると考え、「つながりの中で学びを深める子ども」をテーマに掲げることにしました。

    学習前、学習中、学習後の「マクロのつながり」を意識

    ――その「つながり」について、井土ケ谷小学校は「マクロのつながり」と「ミクロのつながり」を設定して、子どもたちの学びを深めているということですね。まず、「マクロなつながり」とは、どういったものですか?

    西田 どのような流れでその時間の授業までたとりついたかを意識し、その時間の授業を終えてどのように変わったかを自覚し、そして、これからどうなっていくかも意識する。こうした、学習前、学習中、学習後それぞれの広がりある「つながり」を、私たちは「マクロなつながり」とよんでいます。

     たとえば、45分の授業の始めの5分ほどで、きのうまでの学習がどんなものだったかを話し合う時間を設けます。きのうまでの学習が、今日のこれからの授業で使えるかを考えさせるのです。

     そして、授業の終わりの5分ほどで、今日の勉強を振り返り、きのうまでの学習が使えたところがあったかを子どもたちに聞きます。すると、「この前やった方法を使うことができた」といった反応があります。これにより「これからは、この方法が使えるね」と意識づけることができます。

     この授業のしかたをルール化しているわけではありません。でも、45分のうち5分ずつを使っても、残りの35分の学習内容は濃くなると考えています。

    ――子どもたちに、どんな変化が見られるようになりましたか?

    西田 「前に習ったこの部分は、今日の授業のこの部分とつながっていた」といった具合に、「つながり」のあるものとそうでないものの“ふるい”をかけられるようになってきたと思います。

     もうひとつ、ある子が「この前やった方法を使うことができた」と気づくと、その気づきがほかの子にも伝わり「ああやればいいんだ」と学びが進んでいるように見えます。
     それまでに学んだ内容を掘り起こしながら授業をおこなうことの効果を実感しているところです。

     西田先生をはじめ、先生たちは議論を重ねて、方法を進化させていっています。取り組むからには、子どもたちに有効でなければならないという先生たちの思いの表れだと思っています。


    井土ケ谷小学校での「つながり」の概念図。タイムスパンの大きな「つながり」(青)を「マクロのつながり」、1授業内での「つながり」(赤)を「ミクロなつながり」としている。(画像提供:横浜市立井土ケ谷小学校)

    1時間の授業中における「ミクロのつながり」を意識

    ――もうひとつの「ミクロのつながり」のほうはどういったものですか?

    西田 1時間の授業のなかで、「学級の知」つまり、クラスでの新しい考え方がつくられるうえで大切になる子どもたちのつながりを「ミクロのつながり」とよんでいます。

     たとえば、Aさんが発表した自分の考えと、Bさんが発表した自分の考えから、新たな考え方や価値が出てくることがあります。こうしたプロセスを強化して、学び合いを高めていければなと考えたのです。

    ――具体的には、授業でどのようなことをしているのですか?

    西田 たとえば、授業中に子どもたちがグループをつくって意見や情報を交換する時間を設けています。「お話散歩」とよんでいますが、個人で意見や情報を書いたら、席を立ってふらふら歩いて友だちを見つけ、意見や情報を話しあうようにしています。そして時間が経ったら、クラス全体で発表するようにしています。

     これまでは、一人ひとりが、自分のもつ意見や情報を書いたら、その後すぐにクラス全体で発表しあうという2ステップの流れでした。そこにもう1ステップ、途中でグループで話し合う時間をつくったのです。


    「マクロのつながり」と「ミクロのつながり」を生かした授業デザインの例。3年生の「音の性質」より。青枠は「マクロ」、赤枠は「ミクロ」のつながりが強く反映されたもの。(A)他単元で「ゴムの力を強くするほど、車は遠くまで進む」ことを学んでいた。この学んだこととの「つながり」として、授業で(B)音と振動の関係についても「振動が大きいほど、音は大きくなる」ことを読み取ることができた。さらに糸電話を使って音の伝わり方を調べると、(C)「音と振動はおなじものだ」という考えを生みだすことができた。(画像提供:横浜市立井土ケ谷小学校)

    ――子どもたちにどんな変化が生じましたか?

    西田 自分の考えとはちがう考えをほかの子どもたちに積極的に求めにいくような子も現れてきました。「もっとよい考え方があるんじゃないか。ほかの友だちに聞いてみないと」という意識が芽生えてきているようです。

     それに、得られたほかの子の考えを「わたしがかわりに説明してあげよう」と考えてもいるようです。自分の考えをなかなか表現できないでいる子にとっては、それが支援になっています。

     子どもたちがみずから積極的に、友だちの考えとつながろうとしているのだと思います。つながりをつくっていくことのよさを、子どもたちが実感しているのだと思います。


    井土ケ谷小学校が「自然を読み解く力を育てる表現と学び合い 〜つながりの中で学びを深める子ども〜」に取り組んだ2年間における、横浜市学力・学習状況調査の結果。表現することが好きという子どもが増え、また理科の苦手な子どもが減った。(資料提供:横浜市立井土ケ谷小学校)

    「つながり」は学校を超え、時を超えて

    ――ご紹介いただいた教育研究を、どのような体制でおこなっているのですか?

     現在は、西田先生に研究内容面の主担当を、また、もうひとり田中孝之先生に推進委員長として運営面での主担当をしてもらっています。推進委員会のメンバーは決まっているのですが、メンバー以外の先生も自由参加できるしくみにしています。教師になって2、3年の若い先生や新任の先生が自身の意見を述べるなど、先生たちにとっても学んで育つ機会になっているのではないでしょうか。

    ――研究の成果を、研究発表会として広める活動もされているのですよね。公開授業などでは毎年、教室に入れないほど多くの他校の先生が詰めかけると聞きます。

    西田 私どもが研究を通じて得られた知見を、自分たちの学校内にとどめるのでなく、ぜひ広げたいと常々思っています。より多くのみなさんにおこしいただくために、理科教育助成も活用して無料で実施してきました。

     島根、石川、宮城、大阪などの遠方からも生活科・理科の授業研究発表会に足を運んでいただき、ありがたく思っています。助成を受けることの大切さも感じています。

     2018年も12月15日(土)に、今日お話したような内容を研究主題に研究発表会を開く予定です。取り組みの途中経過を他校のみなさんにも発表できればと思います。


    堤校長先生と西田先生にお話しを伺った日産財団の取材チーム。

    ――最後に、取り組みを今後どのように発展させていきたいか、抱負をお聞きします。

    西田 「つながり」を生かして学ぶために、子どもたちが利用できる「学習ライブラリー」を構築できないかといま考えているところです。「そこに行けば有用な情報を得られる」と期待できるような場所を子どもたちにあたえたい。代々の子どもたちが貯めてきたデータが集まっていて、そうした知を、いま学校にいる子どもたちが閲覧し、利用できるような機会をつくりたいのです。
     子どもたちが大きくなったとき、自分に必要な情報がどこにあるのか、だれにアクセスすれば手に入れられるかを知っておくことは、自分の力を発揮したり、新たなアイデアをつくるうえで重要になると考えています。

     井土ケ谷小学校は、学校教育目標のひとつに「見通しをもった問題解決力や、豊かな自己表現力を育てます <知>科学リテラシー」というものを掲げています。学校教育目標の実現には、やはり「つながり」が有効な手段となります。

     子どもたちには生き抜く力をみずから培ってもらいたい。「つながり」を生かしていけば、自分たちの生き方を変えられるというふうに昇華させてほしい。小学校の理科学習で学んだことが、今後の人生の壁を乗り越える力になると思っています。今後もわれわれ教員は、そのための手助けをしてきたいと考えています。