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  • 女子生徒を物理・化学好きにする「実験」のチカラ--リカジョ賞受賞者に聞く 私立和歌山信愛中学校・高等学校 酒井慎也さんら

    第2回日産財団リカジョ賞グランプリ
    「女子校から未来の科学者を育成する〜理科好きリカジョ育成プログラム WSP〜」

    インタビュー:私立和歌山信愛中学校・高等学校 教諭 酒井慎也氏ら
    (実施日:2019年8月30日)

    概念的な授業になりがちである化学や物理の分野に対して、数多くの実験や観察の授業によって「こうなるんだ」と実感をともない理解させる。こうした狙いのプログラムを実施し、「理科が好き!」という女子生徒を確実に増やしている学校があります。

    私立和歌山信愛中学校・高等学校は「WSP」(Wakayama shin-ai Science Program)とよぶ実験・観察体験を中心としたカリキュラムを通じ、これからの時代を担う女性科学者の育成をめざしてきました。この取り組みに対し、日産財団は2019年度の第2回日産財団リカジョ賞「グランプリ」を贈っています。

    プログラムを企画した理科教諭の酒井慎也さん、それに同校の森田登志子校長、紙岡智副校長、理科主任の北野正和さん、理科教諭の佐藤佳子さんに、同校の理科教育の充実ぶりや、女子生徒を理科好きにする実験・観察の授業の実例などをうかがいました。

    学校をあげて理科教育に注力

    ――はじめに、和歌山信愛中学校・高等学校がどのような学校であるか、森田校長先生にうかがいます。

    森田登志子校長(以下、敬称略) 私どもの学校は、カトリックのミッションスクールです。キリストの愛をみなさんに伝えていくため、自分たちも大きな愛をもとうという考えです。

    ――学校の原点となる信愛女学校の開設が1884(明治17)年、また中学校開設が1948(昭和23)年、高校は翌年といいます。学校の歩みのなかで、とりわけ理科の教育に力を入れるようになった経緯は、どういったものでしたか。

    森田 私が校長となった1980年代後半、信愛は文系の学校でした。2000年代に入り、理科教育にも力を入れるようになりました。2002年度に開始された「スーパーサイエンスハイスクール」に指定されることをめざしつつ、「まずは学校でがんばろうじゃないか」ということで、先生たちが熱心に理科教育にとりくんできました。いまは各学年8クラスのうち3クラスが理系です。


    森田登志子理事長・校長。和歌山信愛中学校・高等学校の卒業生でもある。

    ――学校として、どのようなことに取り組んでこられたのですか。

    森田 はじめは、理系分野で活躍されている方々に、生徒たちの前で講演していただくことから始めました。私どもの理科の先生たちが依頼して、大学の先生や企業の研究者など、さまざまな方に講義や指導などをしていただきました。

    北野正和先生 そうした取り組みも含め、長らく理科を教えていると、生徒たちの理科に対する反応の傾向が見えてきました。第2分野、高校でいうところの生物と地学のほうがどちらかというと好きで、第1分野の物理と化学には苦手意識があるということです。


    理科主任の北野正和先生。

    紙岡智副校長 たとえば「電気の流れ」といった、目に見えない概念に対して、生徒たちは苦手意識をもっていたようです。より具体的な話のほうがわかりやすく、興味がわくのでしょう。


    副校長の紙岡智先生。

    森田 そうしたなかで、酒井先生たちが「中学の段階から、子どもたちを理科好きに」という思いで、実験・観察中心の授業づくりに取り組みだしたのです。

    第1分野を好きにさせるため「実験の授業」に力を

    ――では、ここから酒井先生に伺います。実験・観察体験を中心としたWSPを始めた経緯はどのようなものでしたか。

    酒井慎也先生 この学校に赴任して、初年度は中学2年生の担任でした。とくに第1分野の授業で感じたことですが、座学で教えても、知識が生徒たちの頭になかなか入っていっていない様子でした。
    たとえば「前に授業でイオンの話、したでしょ」と言っても、「先生、そんなのやったっけ」といった反応でした。みんなノートをちゃんととっているのに、「先生、わからないところがあります」と言って、ぞくぞくと質問しにきたのです。

    その後、高校生の学年の担任を経て、ふたたび中学2年生の担任になりました。初年度のことを振りかえり、「第1分野を絶対に好きにさせよう。そのためには徹底的に実験の授業をしてみよう」と考えました。


    理科教諭の酒井慎也先生。

    ――子どもたちに理科を好きになってもらうために、「実験の授業」に力を入れることにしたのですね。これはどうしてですか。

    酒井 大阪教育大学の大学生だったころ、指導教員の教授が数多くの実験を披露してくださったことが大きかったですね。教育大学では教材開発を主眼とすることもありますが、その教授は「子どもたちに関心をもたせるには、なによりまず実験だ」と日頃からおっしゃっていました。

    実験は「こうなるんだ」という実感をもたらす

    ――それで酒井先生も実験の授業の大切さを感じていたのですね。具体的に、どのような実験の授業をされたか、紹介していただけますか。

    酒井 はい。まず化学の分野については、中学2年の「酸化と還元」の単元で「酸化銅の還元反応」の実験をしているので紹介します。

    コイル状の銅線を加熱すると、赤かった銅線が黒くなります。それを、エタノールに近づけると銅線は赤い色に戻ります。そして今度はエタノールから遠ざけてみると、銅線はまた黒くなります。生徒たちは「空気に触れたら黒に。エタノールに近づけると赤に」という、色の変化を自分の手を動かし、目で見ることになります。酸化還元反応を目のあたりにするわけです。

    とくに、生徒たちは、還元反応で、黒くなった銅線が赤い色に戻ることが信じられないようすでした。でも、実際にそれが起きているのだから、実感をともなって「こうなるんだ」と理解できたことと思います。


    「酸化銅の還元反応」の実験での、生徒による観察記録。(資料提供:酒井慎也先生。以下も)

    ――実験により、酸化還元反応を「実感」できたわけですね。ほかの実験の事例はいかがでしょうか。

    酒井 「質量保存の法則」も、座学の授業で教えても虚しいだけなので、どうにか実験の授業で理解させたいと考えて、実行しました。

    炭酸水素ナトリウム2.0gをペットボトルに入れます。つぎに試験管に塩酸20mLを入れます。ペットボトルのなかに試験管を入れてふたを閉め、質量を測定します。そして、そのままペットボトルを傾けて化学反応をさせてから、ふたたび質量を測定します。質量は変わりません。では、と、ふたをゆるめて、しばらくしてからふたたび質量を測ります。今度は質量が減少しました。

    この実験により、質量保存の法則を学ばせると同時に、「ふたを開けると質量が減ったということは、原子や分子という質量をもった粒が本当にあって、外に出ていったんだ」と実感してもらえたと思います。
    この化学反応は、「NaHCO3 + HCl → NaCl + H2O + CO2」で表せますが、ある生徒は、化学反応後にCO2が発生したことを実感して、「だから、化学反応式って矢印で書くんですね」と納得していました。


    「質量保存の法則」の実験における生徒の記録。

    ――その生徒にとっては、大きな気づきだったのでしょうね。

    酒井 そう思います。ほかにも「電池のしくみ」の単元では、自分たちのつくった化学電池でオルゴールが鳴ったことに感動していました。

    ――各単元のなかで、どのタイミングで実験の授業をされているのですか。

    酒井 化学分野については、現在は各単元の最初に実験の授業をしています。本来は、仮説を立ててから実験をするという順序が理想的かもしれません。

    けれども、生徒の頭に学んだことを入れていくには、はじめに実験でびっくりさせてから、その後の座学の授業で「前の時間に実験でやったのが、教科書に『化合』って書かれてあるものなんだよ」と、あらためて概念を伝えるようにしています。

    目で見えないことも、手で持てば理解が進む

    ――物理の分野でも実験・観察中心の授業をされているのですね。事例をご紹介いただけますか。

    酒井 はい。中学3年生で習う「力の分解」の単元では、バケツを使って「ベクトルの合成」の実験をしています。

    水をバケツに入れるかわりに、水10kgほどが入ったペットボトルをバケツのなかに置きます。バケツの取っ手には2本のひもをつけておきます。そして、生徒2人のうち、1人が片方のひもを、もう1人がもう片方のひもを手に取り、バケツを持ちあげます。このとき、2本のひもの角度を変えて、「ひもの角度がどうなると重く感じるか」を実感させます。実際、ひもが垂直に近づくほど重く感じるようになるわけですが。

    ちょうど、2本のひもの向きがベクトルの向きを示し、重さ・軽さがベクトルの量を示すことになります。力を目で見ることはできませんが、手に持てば「この場合は重い。この場合は軽い」と実感することができるわけです。


    生徒に参加してもらい「ベクトルの合成」の実験を再現。一方の生徒には垂直に近い角度でひもを持たせ(左)、もう一方の生徒には水平に近い角度でひもを持たせる(右)。逆でもおこない、どっちのほうが重く感じたかを答えさせる。

    ――この実験も、やはり実感が伴うわけですね。ほかの事例はいかがでしょうか。

    酒井 授業完了後の“余りのコマ”では、「沸騰」に関連した実験をしました。平底フラスコに沸騰石を入れて水を沸騰させます。沸騰したら、加熱をやめ、フラスコに素早くゴム栓をして逆さまにします。そして、水槽のなかに逆さまのフラスコを入れて、水をかけていきます。すると、水で冷えて100℃から温度が下がったはずなのに、沸騰します。フラスコ内に充満していた水蒸気が凝縮し、それにより飽和水蒸気圧が下がるため、沸騰するわけです。この実験は「水の沸点は100℃だ」と思い込んでいる生徒に、まだまだ面白い現象があることを実感してもらうために実施しました。


    「沸騰と炎色反応」の実験における、生徒の沸騰についての観察記録。

    「理科は楽しい」「おもしろい」という生徒たちの声

    ――実験や観察を中心としたWSPに取り組まれて、どのような手応えを感じていますか。

    酒井 生徒たちにアンケートをとってみたところ、とくに化学の分野については、「入学前より好きになった」という項目で「そう思う」「とてもそう思う」と答えた生徒が70%、また「化学が得意になった」という項目では、おなじく52%いました。

    物理の分野については、まだそのレベルには至っていないので、プログラムをより改良していきたいと思っています。

    ――生徒たちから感想なども聞けましたか。

    酒井 はい。「実験をすることで頭により残り、また、理科とは楽しいものだと気づくことができた」と答えてくれた子や、「言葉で説明されると自分はよくわからない脳をしているので、実験をやることでわかりやすくなった」と答えてくれた子がいました。

    また、「いままでの理科の化学分野のイメージは、化学式を覚えるためにただひたすら机にむかうというイメージがあったけど、実際は実験もしておもしろいイメージに変わった」と書いてくれたのは、私自身もうれしかったですね。

    ――全国の学校では、実験や観察の授業を充実させることの大切さを感じていながらも、「手間がかかってたいへん」などとためらっている先生もいるのではと思います。酒井先生たちは、なにか工夫されているのですか。

    酒井 この学校では、2人担任制であるため、ペアを組ませてもらっている先生に助けてもらっている点はあります。そういう学校でなくても、初年度におこなった実験は、また次年度以降も使えるし、だんだんと感覚がつかめてくるものだと思います。

    ――最後にお聞きします。これまで築いてこられたWSPを、今後どのように発展させていきたいと考えていますか。

    酒井 いままでおこなってきた実験を、さらに充実させていきたいと思います。

    子どもたちにとっては、「もっと知りたい、学びたい」という気持ちが起きることが、学習の原動力になると思います。実験を主体とする授業を展開して、子どもたちのそうした気持ちを高め、能力の可能性を広げていければなと思っています。

    つねに「気づき」があるような授業をつくっていきたいと考えています。

    和歌山の空に飛べ! 「ロケットガールズ」の挑戦


    ロケットガール養成講座で生徒たちがつくり、打ち上げたロケット。

    和歌山信愛中学校・高等学校では、理科教育の一環として「ロケットガール養成講座」というプログラムも実施されています。和歌山大学協働教育センターの秋山演亮教授による指導のもと、全長1.2mほどのロケットを、有志の女子生徒たち、その名も「ロケットガールズ」が、自分たちの手で設計・製作。そして、和歌山市内の「コスモパーク加太」で、実際につくったロケットを打ちあげます。

    取材に同席していただいた理科教諭の佐藤佳子先生によると、「生徒たちには『燃料で打ちあがり、上空でパラシュートが開いてゆっくり落下するようなロケットをつくりなさい』という課題のみがあたえられ、『どうつくるか』は示されません」とのこと。「生徒たちはなにが必要か自分たちで考え、それでもわからないとなってはじめて、秋山先生に質問します」。


    理科教諭の佐藤佳子先生。佐藤先生は同校の卒業者でもある。

    打ちあげに成功する年も、失敗する年もあるそう。最近は、森田校長先生をモデルにした人形「としこちゃん」も乗せて、打ち上げています。

    「モノをつくったり、モノに触れたりすることの学習効果は高いという実感があります。『座学や実験で習ったことが、ロケットづくりで結びついた』と言ってくる子もいます。今後も、女の子のためのための理科の教育を築いていけたらと思います。そして将来、社会や企業で活躍できる女性科学者、エンジニアの育成に貢献したいと考えています」(佐藤先生)