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  • 「震災復興のために貢献したい」という思いを「研究」というかたちにーーリカジョ賞受賞者に聞く 福島市立渡利中学校 菅野俊幸さん

    第1回日産財団リカジョ賞グランプリ
    「震災からの復興と地元産の農作物の風評被害の克服を中学生の女子力で」

    インタビュー:福島市立渡利中学校 菅野俊幸氏
    (実施日2018年10月12日)

    「震災からの復興」は子どもたちの思いでもあります。「私たちも人びとの役に立ちたい」と願う中学生たち。「でも、なにをすればいいんだろう……」。

    そんな生徒たちに「科学の研究に取り組んでみないか」と先生が手をさし伸べました。そして、地域で活動する人びととも連携し、震災からの復興や風評被害の克服につながる成果を導き出しました。

    福島市立渡利中学校で2012年に発足した「特設科学部」は、中学生の視点で復興を目指した研究活動をおこなってきました。この取り組みに、日産財団は2018年度の第1回日産財団リカジョ賞の「グランプリ」を贈っています。

    顧問の菅野俊幸先生に、取り組み内容や力を入れた点、さらに成果や今後の抱負などについて話を伺いました。生徒たちの部活動も見させてもらいました。

    震災から1年、2人の女子生徒が研究に立ち上がる

    ――渡利中学校の特設科学部で「震災からの復興と地元産の農作物の風評被害の克服を中学生の女子力で」というテーマの取り組みをしてこられました。まず、取り組みの経緯をお聞きします。

    菅野俊幸先生(以下、敬称略) 特設科学部の活動は、私がこの渡利中学校に赴任した初年の2012年から始まったものです。当時は、東日本大震災と原発事故から1年とすこし。この中学校の学区は、放射線量の高い「ホットスポット」としてマスメディアにも取り上げられられ、30人ほどの生徒たちがご家族とほかの地域に避難していました。学校で過ごす生徒たちも、「このような被災地にいてもどうしようもないのではないか」といった気持ちが強かったような印象を受けました。

    そうしたなかで、生徒たちに「きみたちにもできることがあるはず。なにかやってみないか」と呼びかけました。生徒たちは「震災の復興に向けなにかやりたいけれど、どうすればいいんだろう」といった感覚をもっていたようです。

    その前段として、私は前任の福島第一中学校での特設科学部顧問の経験を通じて、子どもたちがもつ可能性を感じてもいました。当時の生徒たちがヒメオドリコソウの研究に取り組んでいた最中に震災が起き、空間放射線量率が高くなったため屋外での調査ができなくなりました。泣く子もいましたね。けれども、線量率の低い山形県米沢市まで行って調査をしたり、ヒメオドリコソウを理科室にもちこんで室内で実験したりして、生徒たちは工夫と努力を重ねてきました。そうした経験から「子どもたちにはひとつのテーマや研究を通じてがんばれる力があるんだ」という思いを持っていたのです。

    それで、私の「なにかやってみないか」に、2人の女子生徒が手を挙げ、渡利中学校での研究活動が始まったのです。1人は「塩害土壌の克服」、もう1人は「家庭用植物工場の作成」をテーマにしたいと言って、それぞれ取り組みました。屋外は放射線量が高かったため、室内でホウレンソウを育てることで研究に取り組んでもらいました。

    生徒たちは研究成果を学校の文化祭や市内の科学館で高校生と一緒に研究内容を発表しました。そんな先輩たちの姿を見て、後輩生徒たちも「自分たちもできるかな」と興味を示すようになりました。私からの「やってみないか」との呼びかけに応じ、だんだん入部者が増えていきました。

    ――生徒たちに定着していったのですね。

    菅野 はい。研究テーマについても進展がありました。「福島県の農産物を、他県とおなじものでなく、違った価値を持つものにしないと」との考えから、生徒たちは機能性野菜の栽培を研究するようになりました。いま、発がん性のニトロソアミン化合物を生成する硝酸濃度の低減化や、人工透析患者のために安価につくれる低カリウム野菜の栽培などに、生徒たちは挑んでいます。

    これまで6年間の活動では、ほかに、牛乳をヨーグルト発酵させ、生分解性プラスチックにするための研究などにも生徒は取り組みました。これも、原発事故後、福島県産の牛乳が市場で評価されにくくなったことを受け、「捨てられてしまう牛乳をどうにか利用できるものにしたい」という生徒たちの思いから取り組んだものです。

    協力者を得て「福島のみんな」で研究

    ――取り組みにあたって、どんなことに力を入れてこられましたか?

    菅野 「みんなで研究する」という姿勢で取り組んできたことです。私は日ごろ、研究とはチームでするものだと考えています。生徒みんながチームを組んで研究することもそうですが、学校内にとどまらず地域のみなさんにもご協力いただき、「福島のみんな」に研究に携わっていただけるようにと考えてきました。

    たとえば、はじめ手がけていたホウレンソウは栽培がむずかしい植物だとわかり、県南の石川町の農家の方にホウレンソウの育て方を勉強させていただきました。また、福島大学理工学類の杉森大助先生や、大橋弘範先生をはじめ、大学の先生たちにも熱心に、生徒たちの研究活動を支援していただきました。市内の福島成蹊高校と情報交換もしました。

    ――学校外の人たちに、取り組みに携わってもらおうとしたのは、なぜですか?

    菅野 「震災復興の力になりたい」と思っている生徒たちに、どのように力を表せるか、見える形で示してやりたかったのです。また、大学や農業試験場につとめている方々の実際の姿を見たり、お話を聞いたりすることで「自分たちのこの研究は将来どんなところにどうつながっていくのか」といったことをより具体的に思い巡らせてほしいという思いもありました。震災から7年が経ったいま、現状がどうなっているかを子どもたちに見せるのが私のつとめだと思っていました。

    ――研究活動を学校内だけでなく地域にも出てなさったとのことですが、実際そうしたネットワークはどうつくられていったのでしょうか? 学校から専門家たちにアプローチしたのか、それとも研究活動を知った人たちからアプローチがあったのか……。

    菅野 両方ですね。生徒たちが研究のための調べものをしているなかで、「自分たちとおなじ研究をしている人がいる」と気づき、「じゃあ、その先生に直接お話をうかがってみよう」となったこともあります。また、各種発表会の場で、見にきていただいた方から「こうしてみるともっとよくなるよ」とご紹介いただき、ネットワークが広がったということもあります。加えて、生徒たちの保護者のみなさんも、「こんな人がいますよ」と教えてくださりもしました。

    生徒たちが責任感と自信をもつようになった

    ――取り組みの「成果」を、どのように感じていますか?

    菅野 生徒たちにとっては「自信になった」という点が大きな成果だと思います。風評被害もあって辛い思いをするなか、生徒たちは「自分たちが発信しなければ」と研究に対して責任感をもって取り組んできました。はじめは自分の研究をうまく説明できなかった子も、発表会などを通じて説明できるようになるなど成長していきました。彼女たちの心の裏側には「福島や自分たちのことをわかってほしい」という思いもあったのだと思います。

    自分自身も、残りの教職年数でなにをしなければならないか、教師としての使命について、感じ、考える機会になりました。それに、生徒から元気をもらえたことも大きな成果です。部活動の顧問を兼部して、気持ちが折れそうになったとき、生徒たちから「先生! こんな実験結果が出たよ」と言ってもらえると、教師として「がんばろう」と思うものです。

    ――「リカジョ賞」は、未来社会をリードする女性の育成につながる取り組みに贈られます。特設科学部の活動を通して、女子生徒の活躍や、その萌芽をどう感じてきましたか?

    菅野 とりわけ女子生徒たちは「だれかのために役立ちたい」という思いをもっているように感じます。その思いはずっと続いているようで、卒業生たちがさまざまな分野で貢献しようと志していることを報告しにきてくれます。赴任初年度に研究に取り組んでいた子は、東京医科歯科大学に入学を果たし「放射線関係の勉強をしたい。将来、福島に帰って地元のために役立ちたい」と言っています。また、高校生3年生になった卒業生は「大学の農学部に進みたい」と言っていました。

    中学生のときには大変な思いをしても、その後、大きく羽ばたいてくれていると感じましたね。いまの生徒も続いてくれるものと思います。

    取り組みをさらに広げていきたい

    ――「震災からの復興と地元産の農作物の風評被害の克服を中学生の女子力で」というテーマの取り組みを、今後、どのように発展させていきたいとお考えですか?

    菅野 これまでの活動で、子どもたちの「やればできる」という気持ちは育ってきたように思います。「先輩たちを受け継いで、来年は自分たちが」という思いをもっている後輩の生徒もいます。こうした子どもたちの思いを今後も大切に支えていければと思います。

    私自身は何年後かに、また別の学校に転勤することになるかもしれません。渡利中学校の特設科学部がやってきたような取り組みが、また一つ、二つ、三つと増えていき、大きな力になっていけばとも思います。

    自然災害を受けて苦労されている地域は福島県だけでなく、全国に数多くあります。「福島であそこまでできたのなら、うちもきっとやれる」といった思いが全国に広がってくとうれしいですね。

    植物の能力を研究で見出す

    放課後、理科室でおこなわれている科学部の部活動におじゃましました。机の上、棚の上にコマツナなどのみどりの植物がたくさん。生徒たちは葉から成分を抽出して、酸性度、塩分、硝酸イオン、カリウムイオン、ナトリウムイオンなどの量を測定します。ファイトレメディエーション(植物の吸収能力を利用した汚染分解技術)などに役立てようとしています。

    一人ひとりが、自分自身のがんばった取り組みを伝えてくれました。

    「大切なデータになるので、コマツナを枯らさないように管理しています。運ぶとき茎が折れないように、細かいところまで気をつけています」

    「小学校のときには見なかった器具がたくさんあり、はじめはどれも使い方がわかりませんでした。大変でしたが、ひとつずつ使い方を覚えていきました」

    「祖母が人工透析を受けていることから、カリウムが低減された野菜の栽培にとりくんでいます。研究のことを言ったら『すごいね』と言ってもらえました。多くの人の役に立つデータにもなるので、データ測定を大切にしています」

    特設科学部の研究の取り組みに対し、これまで『日本学生科学賞(読売新聞社主催)』など数々の賞が贈られてきました。そうした舞台でおこなってきたプレゼンテーションもしてもらいました。

    「アブラナ科植物が塩害土壌を克服するというテーマで研究してきました。1 植物の発芽率の測定、2 胚軸長・根長の測定、3 耐塩性の実験、4 収穫後、カリウム、ナトリウムの量や耐塩性を調べました」

    「グラフは、塩分濃度0.8%で栽培したときのナトリウム吸収量と重量変化率です。値が高いほど耐塩性が高いことを表しています」

    「実験1〜4により、すべて良好な結果はカラシナと求められました。塩害土壌への直播きのファイトレメディエーションに効果的な植物は、カラシナです!」