<開催報告>第2回STEAM教育フォーラム−外部リソースを活用して、STEAM教育をはじめよう!−
公益財団法人日産財団は2022(令和4)年10月29日(土)、「第2回STEAM教育フォーラム −外部リソースを活用して、STEAM教育をはじめよう!−」をオンラインで開催しました。今回は、学校の先生たちに「STEAM教育※を始めるにあたり、外部リソースを活用して課題解決をはかってみては」という提案するかたちのテーマとし、パネリストやコーディーネーターから具体的な情報や提案を多くいただきました。全国の教育関係者など約100名ものみなさんにご参加いただき、充実したフォーラムとなりました。
※STEAM教育:Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Art(芸術・リベラルアーツ)、Mathematics(数学)を対象とした理数教育に創造性教育を加えた教育理念のこと。
未来のイノベーションの源泉であるSTEAM教育を支援
はじめに日産財団常務理事の原田宏昭が挨拶し、「STEAM教育は未来の科学技術イノベーションの源泉であると捉え、私たちはその普及を後押ししています」と日産財団の姿勢を伝えました。そして「今回は、STEAMのコンテンツやツールに詳しい先生たちに上手な活用法を教えていただきます。みなさんのSTEAMの実践の第一歩につながればと期待しています」と続けました。
挨拶する原田宏昭・日産財団常務理事。
地域でのエコシステム構築などを支援 ―― 一般社団法人STEAM JAPAN
いよいよ講演です。まず、一般社団法人STEAM JAPAN代表理事で、Barbara Pool代表取締役・クリエイティブプロデューサーの井上祐已梨さんに「STEAM JAPAN内容紹介 –外部リソースの活用について–」という題で講演をしていただきました。講演の全編をYoutube動画でご覧いただくこともできます。
井上祐已梨(いのうえゆみり)さん。一般社団法人STEAM JAPAN代表理事。株式会社Barbara Pool代表取締役・クリエイティブプロデューサー。日本・シリコンバレー・英国に拠点をもち、「世界のSTEAM教育」や「つくりだす学び」の最新情報を発信するSTEAM教育専門ウェブメディア「STEAM JAPAN」編集長。地方自治体と連携したSTEAM教育の推進エコシステムを提唱し、官民連携でエリアごとに実践をおこなっている。
地域や社会の課題を子どもたちが解決するようにしないと日本の未来は厳しいという意識をもつ井上さんは、経営する会社「Barbara Pool」にSTEAM事業部を立ち上げ、ウェブサイト「STEAM JAPAN」の運営などを行い、2019年に一般社団法人STEAM JAPANを設立しました。Barbara Poolでは経済産業省「平成31年度 学びと社会の連携促進事業(「未来の教室」(学びの場)創出事業)における実証事業」の事業者にも採択されています。
井上さんはSTEAM教育のキーを「体験を通じた『つくりだす(創造)』に重点を置いた、分野横断的かつ実社会につながる学び」と表現します。とくに強調するのが、STEAMのAの要素。「われわれはAを、ビジョンを描く力であり、課題を抽出する力であると言っています。これらの力と、課題解決できる具体的スキルであるSTEMを融合したものをSTEAMとよんでいます」と井上さんは説明します。新たな価値創造、仲間との協働によるアイデアの具体化を通じた社会実装、課題解決に対する当事者意識の醸成などもキーであると強調します。
そしてSTEAM JAPANの取り組みのしかたとして、三つのステップを紹介しました。ステップ1で公教育分野を中心とした先生たちに研修を通じてSTEAM教育の意義・内容を理解してもらう、ステップ2でSTEAMプログラムを開発したり校内でそのプログラムを実施したりする、そしてステップ3で地域でのエコシステムを構築する、といったものです。
井上さんは、「とくに地域でのエコシステムを構築する点が重要と思っています」と述べ、フェーズごとに支援できることがSTEAM JAPANの特徴的な役割であるの見方を示しました。自治体ごとに特色のあるプログラムを開発していることも述べ、事業推進の一例として大分県の「OITA STEAM PLATFORM」というSTEAM教育の取り組みを挙げました。
また、中高生のSTEAM人材を表彰する「STEAM JAPAN AWARD」という賞を2019年より創設していることも紹介しました。井上さんは、「STEAM人材の可視化」を賞のねらいに挙げます。受賞者から「アウトリーチの活動評価の場所がすくないので受賞はありがたかった」との声があったと伝えました。
先生たちとともに教材を考え創る ―― 株式会社リバネス
次に、株式会社リバネス人材開発教育部/教育総合研究センターの海浦航平さんが、「外部連携を起点に加速する学びの探究化・STEAM化」という題で講演をしてくださいました。講演の全編をYoutube動画でご覧いただくこともできます。
海浦航平(かいうらこうへい)さん。株式会社リバネス人材開発事業部/教育総合研究センター。千葉大学大学院融合理工学府先進理化学専攻修了。修士(工学)。2002年に理工系学生によりに創立した研究者集団である同社において、身近な科学技術へのリテラシー向上とDeep Techによる社会課題の解決を目指し、おなじ志をもつ仲間を増やすため、「リバネスユニバーシティ」や「JRE Stationカレッジ」などの取り組みを推進。教育総合研究センターでは、非認知能力の評価指標の開発や教員組織のあり方、外部の巻き込みについて、数多くのプロジェクトを仕掛ける。
海浦さんはまず、リバネスの取り組みを紹介します。「科学技術の発展と地球貢献を実現する」という理念を伝え、子どもたちの理科離れを食い止めるための出前授業「研究者による先端科学実験教室」から活動を始めたことを述べました。
そして、出前授業の活動事例として、川崎重工業との神戸や南三陸で実施した実験教室や、セイコーに縁の深い地である東京・墨田で実施した実験教室などを紹介。フォーラム参加者の学校の先生たちに、「近隣に研究所や工場があるところで、こういうことをいっしょにできたらおもおしろいのにと思っていたら、ぜひいっしょに声がけに行きましょう」とよびかけました。
リバネスが研究体験を通じて研究心を育むことなどを特徴とする教育システム「Research Based Education(RBE)」を展開していることも海浦さんは紹介。中高生のための学会である「サイエンスキャッスル」の開催も実践例に挙げました。
さらに経済産業省が提供する教材コンテンツ集「STEAMライブラリー」を大いに活用することを海浦さんは提案します。リバネスが携わったコンテンツとして、台風のエネギーによる発電に挑む企業「チャレナジー」の物語からアントレプレナーシップなどを学ぶ「ハッケンLENS 世界初の風力電機を開発したチャレナジー編」などを紹介しました。
海浦さんは「伝えたいこと」として、世の中にあるコンテンツの活用のしかたは「先生たちの力量に委ねられている」と強調。「動画の冒頭5分だけでも使ってみよう。自分が体験したいがためにやってみよう。こうしたことでもよいと思うので、ぜひ取り組んでみてください」と訴えました。
合わせて、仮説を立て、疑問・課題を掲げ、実験をおこない、結果を出し、考察する「研究者的思考」の重要さも強調します。「生徒の学びがあるか」「先生自身がワクワクするものか」という観点で研究者的思考を実践することを提案しました。
最後に、海浦さんは個人的な想いとして「学校にはお金がない」という前提を示したうえで、教員免許の有無によらない外部人材の流入促進や、教えの専門家と学びの専門家によるチームづくりなどのアイデアを披露。「アイデアはあります。いっしょに汗をかき、世界を変えましょう!」とフォーラム参加者によびかけて、講演を締めくくりました。
「自信をもたせるため発表の機会を」「一歩目の踏み出しを」
つづいて、日産財団理事で、滋賀大学教育学系教授 兼 兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科教授の加納圭さんのコーディネートのもと、フォーラム参加者からの質問や相談事をもとに井上さん・海浦さんとのトークセッションをおこないました。
フォーラム参加者からまず質問として挙がったのが、小学3年生といった割と低い学年を対象にしたSTEAM教育の内容としてどのようなものがありうるかといったものです。
井上さんは、英国の小学校低学年での事例として、「体育の授業での準備運動を自分でクリエイトする」「チームのなかでの自分の役割を考えさせて、チームメイトを募集する動画をつくってプレゼンテーションする」といった宿題があることを示しました。「つくり出す学び」が多い上、「解のないものにチャレンジしてもらう」という共通点を指摘しました。
海浦さんは、子どもたちに一次情報に触れさせることの大切さを強調しました。「実体験をどれだけさせてあげられるかです。実際どこかに行くだけでなく、ウェブで調べたり動画・映像を見たりすることも含みます。そして、アウトプットさせることまでできるとよいと思います」
加納さんからは、「小学校の先生は複数教科を担当するので、STEAM教育に対するその優位性はありそう」との指摘がありました。
加納圭(かのうけい)さん。公益財団法人日産財団理事。滋賀大学教育学系教授 兼 兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科教授。滋賀大学提供のMOOC講座「はじめてのSTEAM教育」の制作に携わる。NHK Eテレ「カガクノミカタ」「考えるカラス〜科学の考え方〜」の番組委員をつとめる。
次に、フォーラム参加者から、職業、地域、進路学習などのキーワードのなかで探究的な枠組みをつくっていくためのアドバイスを求める声が寄せられました。
井上さんはクリエイティビティに焦点を絞り、日本のZ世代で「自分が創造的」と思っている人の割合が8%と、他国より非常に低かったAdobe調査の結果を紹介。「クリエイトし、そして自分で表現する・伝えることの練習が大事。そうしたことで、クリエイティブコンフィデンス(創造性の自信)にもつながっていく」と話しました。
海浦さんは、かならずしもサイエンスやテクノロジーの要素を入れなければならないことはないと述べたうえで、「これらのエッセンスを入れる必要があるときは、積極的にサジェスチョンしてあげられることが重要になります。アドバイスにSTEAM的な要素を入れていけばよいものになると思います」と述べました。
トークセッションの様子。
加納さんから井上さん・海浦さんに、あらためてSTEAM教育において外部リソースを活用するときの利点や注意点についての問いがありました。
井上さんは、「とくにファーストステップを踏み出すとき、なにもわからない状態だと厳しいので、外部活用に意義があると思います」としつつ、その後の段階では「自分たちの学校・地域でエコシステムをつくっていくことが重要になります」と話し、自分たちの教育システムにしていく意識の重要性を指摘。さらに「エコシステムをつくった段階でも、実社会につながる学びにおいて外部の人たちは切っても切れないので、そこでも外部活用をしていくとよいと思います」と加えました。
海浦さんは、「とにかく一歩目を踏み出すという段階を越えさえすれば、その後はこういうのをもっと使ってみたらといいかもといったアイデアが出てきて進んでいけると思います」と述べ、フォーラム参加者たちの背中を押しました。また、外部活用の利点として、先生との相性が合わない生徒をより支援できる点を挙げました。
「実践」のための具体的な提案・助言・情報提供が多数
パネリスト、コーディネーターと日産財団の運営スタッフによる「集合写真」。
最後に、井上さんが「ぜひ先生たち自身がワクワクしながら取り組みを進めていってください」とエールを、また海浦さんが「先生たちとディスカッションし、よりよい教育をともに考えていけたらと思います」と声がけをしました。
前回の第1回フォーラムで「STEAM教育の導入の障壁」をテーマにしたのに続き、今回の第2回ではより踏み込んで「外部リソースの活用」というテーマにし、パネリスト・コーディネーターのみなさんから、具体的な提案・助言・情報提供を多くいただくことができました。
今後も日産財団は、STEAM教育フォーラムなどの行事や、理科教育助成などの事業を通じて、STEAM教育を実践しようとする先生や教育関係者のみなさんを支援してまいります。どうぞよろしくお願いします。